肝臓がんの外科治療ー腹腔鏡手術から高難度手術まで

平塚市民病院

消化器外科

神奈川県平塚市南原

肝臓がんの概要

口から摂取した食べ物は、消化管で消化吸収されたのち大部分が肝臓に運ばれ、たんぱく質や血液を固める凝固因子などに合成され、アルコールなどの不要な物質は解毒されます。「肝腎かなめ」と称されるように、肝臓は体の中の工場のような臓器であり、生きていく上でなくてはならない臓器です。

外科治療の対象となる肝臓がんは、原発性肝(げんぱつせいかん)がんと転移性肝がんに大きく分けられ、切除によって根治も期待できる場合に、外科治療の対象になります。

肝臓がんの手術

肝臓は消化管と異なり、肝内に血管や胆管が枝分かれして無数に走行しています。肝切除は細かい血管や脈管を慎重に処理しながら、適切な切離線を見極めて切除していくため手術時間が長くかかり、外科手術の中でも専門性が高く比較的高難度な手術です。

また肝臓がんの手術は、生きていく上で十分な肝臓の大きさや機能を残せるかといった「残肝予備能(ざんかんよびのう)」の評価が重要です。残肝予備能が不十分な場合は、技術的には切除可能でも切除を断念する場合もあるのです。

過不足のない肝切除と肝切除シミュレーション

肝臓は8つの番地(亜区域)に分けられます(図1)。

イラスト
図1 肝臓の亜区域

比較的大きな肝細胞がんに対する肝切除は、腫瘍(しゅよう)だけを切除するのではなく、腫瘍が存在している亜区域をすべて切除する「系統的切除」が根治性において優れているとされており、当院でも施行しています。しかし、根治性を高めるために大きく切除すると逆に「残肝予備能」は少なくなるため、根治性と安全性を担保した過不足のない肝切除が求められるのです。

当院では、術前のCT画像を解析して術前3D肝切除シミュレーションを行っています。患者さんの肝障害度によって切除できる肝臓の容積は大体決まっており、正常な肝臓がどのくらい残るかを測定することで、「残肝予備能」を測定することが可能です。

「図2」の患者さんは、肝臓の5番地と6番地のちょうど真ん中に3.5cmの肝細胞がんができました(図2a)。そこで、この領域に栄養を送る門脈(もんみゃく)という血管をそれぞれ根元で切ることにより過不足のない肝切除が可能で、残肝容積は約70%と計算され、十分な「残肝予備能」を温存できることも分かりました(図2b)。

写真・イラスト
図2
a. 腫瘍と門脈の位置関係
b. 5と6番地を切除した場合のシミュレーション
c. 5番の門脈を縛った後に血流不良域として表出した5番地の範囲
d. 6番の門脈を縛った後に血流不良域として表出した6番地の範囲

実際の手術でも、5番地と6番地に向かう門脈を結紮(けっさつ)(糸などで結ぶこと)することで、切除するべき領域が明瞭に描出され、術前肝切除シミュレーション通りの肝切除術が行われました(図2c、d)。術後も順調に経過し、肝不全を発症することなく術後7日目に退院されました。

小さな創で痛みの少ない腹腔鏡下肝切除術

当院では、比較的小さな肝臓がんに対しては積極的に腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)を行っています。肝臓は大きく、左右の肋骨弓(ろっこつきゅう)に覆われて存在するため、通常の開腹手術で行う肝切除は、どうしても大きな創(きず)になってしまいます。もちろん、がんを治すことが最優先ではありますが、根治性や安全性が同等であれば、創が小さいことで痛みも少なく、早期退院が可能な腹腔鏡手術は、患者さんにとって大きな利点があります。

脂肪肝で経過観察中に、肝臓の表面に1cmの肝臓がんを発見された患者さんの治療を紹介します(図3a)。がんがお腹(なか)の壁に近すぎるため、ラジオ波焼灼術(しょうしゃくじゅつ)(皮膚を通して電極針を膵臓がんの中心に刺入し、ラジオ波という電流を流して針の周囲に熱を発生させ、腫瘍を焼灼壊死(えし)させる方法)が難しいと判断されましたが、お腹に4か所の小孔を開けて施行した(図3b)腹腔鏡下肝部分切除術(ふくくうきょうかかんぶぶんせつじょじゅつ)を受け(図3c、d)、術後3日目に元気に退院されました。

写真・イラスト
図3
a. MRI検査で肝表に10mmの肝細胞がん(矢印)を診断した
b. 腹腔鏡手術の創
c. 腹腔鏡手術で肝細胞がん(矢印)を切除しているところ
d. がんを含む肝組織を袋の中に収納しているところ

肝臓がんの治療も近所の平塚市民病院で

肝臓がんの外科治療は専門性が高く、高難度の手術とされていますが、技術の進歩によって安全が担保され根治性も向上しつつあります。最近は腹腔鏡手術の件数も増加傾向であり、がんセンターや大学病院に勝るとも劣らない良質な肝臓がんに対する外科治療を当院でも行っており、比較的良好な成績が得られています。

また、当院では、肝臓がんに対する外科治療以外にも、消化器内科で施行するラジオ波焼灼術、放射線科で施行する肝動脈化学塞栓療法(かんどうみゃくかがくそくせんりょうほう)(TACE:足の付け根の動脈から肝臓がんに栄養を供給する細い肝動脈までカテーテルを進め、そこで抗がん剤や塞栓物質などを注入して血流を遮断し、肝臓がんを壊死させる方法)や放射線治療など、あらゆる分野において肝臓がんに対する最先端の治療が可能です。

更新:2024.10.18

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