すべては母子の安全のために

平塚市民病院

産婦人科

神奈川県平塚市南原

周産期部門として母体・新生児を受け入れるために

当院の大切な役割の1つに、周産期医療があります。総合病院の周産期部門として、合併症妊娠、妊娠高血圧症候群、切迫早産、多胎、胎児発育不全など、疾患を抱えた妊婦・胎児・新生児に対し専門的な医療を行うために、母体、新生児を受け入れる体制を整えています。

5D産科病棟は20床を有し、新館の最上階である5階にあります。周産期医療を行う特殊な病棟として、妊婦、産褥婦(さんじょくふ)など産科関連の患者さんのみを対象としています。また、同じフロアには、新生児集中治療室(NICU)を3床、新生児回復室(GCU)を8床、さらに一般の小児病棟として20床を有しており、ハイリスクな妊娠、出産の際にも、産科と小児科によるスムーズな連携が可能な構造となっています。

また、夜間や休日でも、当院では、産婦人科医、小児科医各1人が院内に常駐しており、さらに、緊急手術、緊急入院などの急変時、双子などの多胎にも常に対応できるように、産婦人科・小児科各1人が自宅待機(オンコール)しています。

産科病棟には、23人の助産師が在籍しており、夜間・休日でも常に3人以上の助産師が勤務しています。全員が、新生児救急蘇生法(NCPR)のAコースをマスターしており、大事な赤ちゃんが重篤な状態で出生した場合でも、迅速に救急処置を行う知識と技術を有しています。さらに、23人の助産師の半数以上が、助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)のレベルⅢを保有する、アドバンス助産師と呼ばれる資格を保有するなど、母体・新生児を守るための自己研鑽を積んでいます。

妊産婦死亡をなくす努力

最近のデータでは、国内の妊産婦死亡率は10万人出生に3.8人となっています(図)。これは世界的に見ても極めて少ない数字であり、国内の周産期医療のレベルが世界に誇れるものであることを示しています。

グラフ
図 妊産婦死亡率の国際比較

ただ、出産で命を亡くす方がいることも事実です。また、日本より妊産婦死亡率が少ない国もあります。日本中の産科医が、この数字を下げるために日夜努力をしています。当院も病院全体で、妊産婦死亡をなくす努力を続けています。

分娩時の大出血や常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)など、母児の生命に切迫した状態が生じた場合には、母体の救命のために、産科スタッフだけではなく、院内に常駐している救命救急医、手術室スタッフ、麻酔科医、放射線科医とも協力できる体制が確保されています。分娩中に急変したときに、どう対応するのか。たった数分の判断の迷いが、処置の遅れが、家族の人生を大きく狂わせることがあります。当院ではこのように、急変時には、病院全体で母体の安全を確保するシステムを構築しています。

赤ちゃんが主役のNICU(写真1)

早産や、低出生体重、元気がない状態で生まれた赤ちゃんは、当院の小児科が治療を開始します。

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写真1 NICU

NICUでは、妊娠30週、体重1000g程度の新生児に対応することができます。年間100人以上の新生児の入院があり、できるだけ平塚市内で完結できる医療を目指しています。しかし、妊娠30週以前の妊婦さんの場合には、的確に判断し、東海大学や神奈川県立こども医療センターなどに母体を搬送するケースもあります。NICUでは、「主役は赤ちゃん!離れていても、家族と一緒!!」を合言葉に、声を持たない赤ちゃんが表す微妙なサインを見逃さず、障害を残さないための環境を整えていくことを大切にしています。2人の新生児集中ケア認定看護師を中心とし、医師と看護師が常に話し合いを持ち、すべてのスタッフが同じ目線で赤ちゃんとその家族にかかわっています。

例えば、ミルクを飲み込むのが苦手な赤ちゃんの家族に対して、経管栄養の管理や退院後の生活で必要な観察ポイント・特徴を理解した育児が行えるような指導をしています。また、きょうだい面会や家族との「交換ノート」を通して、面会だけでは伝わりにくい家族の不安や思いに寄り添う努力を続けています。さらに、退院支援室、訪問看護スタッフとも連携をとり、自宅での赤ちゃんとの生活がスムーズに行えるよう調整するとともに、小児科外来とも合同カンファレンスを持ち、切れ目のない看護を提供しています。

硬膜外麻酔併用の和痛分娩開始準備も

前述のように当院には、最も大切であるお母さんと赤ちゃんの健康を守る体制があります。どうしても当院では対応できない重症例に関しては、東海大学病院や、こども医療センターなどと連携を図り、お母さんと赤ちゃんにとってベストな医療が受けられる環境を提供することができます。

また、ハイリスク分娩だけではなく、通常分娩への対応や、最近ニーズが高まっている硬膜外(こうまくがい)麻酔を併用した和痛分娩の開始に向けた準備も行っています。

妊婦さん一人ひとりの満足と安心のために

産科病棟・小児科病棟は、2016年5月に新館5階に移転しました。基本的に、産科病棟は妊婦さんが中心に、小児科病棟には小児科・外科・整形外科・皮膚科・耳鼻科などにかかわる疾患をもつ15歳以下の小児が中心に入院します。総合病院でありながら、新しくさわやかな雰囲気を感じることができます。大部屋もしっかりとプライバシーが守れ、女性に好ましい構造になっています。窓からは富士山、大山や丹沢を望み、お見舞いの方や家族の皆さんがお越しの際もくつろいで過ごせるよう、憩いの場としてラウンジやデイコーナーも完備しています。

また、母親学級、両親学級の開催、助産師外来(写真2、3、4)を通して、入院前の外来の段階で助産師がかかわることにより、妊婦さんが抱えているさまざまな疑問や心配事に応えています。妊婦さんの不安を和らげるだけでなく、問題があるケースを早めに抽出し、スタッフ全員で問題を共有し、適切な方針を導き出すことが可能です。さらに出産後も、育児、授乳に関するトラブルに対して、助産師・産科医だけでなく、小児科、乳腺外科、時には精神科とも連携し、困っているお母さんたちのサポートを行っています。

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写真2 助産師外来
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写真3 沐浴指導
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写真4 母乳指導

公的病院であるため、行うことができるサービスには大きな制限がありますが、個人が有する資格や能力を最大限に生かし、チームワークで、妊婦さん一人ひとりの満足と安心を高めていく努力を続けています。

公的病院としての側面

当院は、公的病院として、医学的な問題だけでなく、「分娩費用が工面できない」ケースや、若年妊娠、育児放棄などの社会的な問題を抱えた妊産婦に対しても、地域の公的機関と協力し支援するという、大切な役割を担っています。「出産・子育て」を積極的に支援していくという平塚市の方針のもと、行政と協力しつつ、あらゆるサポートを行っています。

ただ、当院は、厚生労働省が認定する正式な周産期母子医療センターには認定されていません。神奈川県には5つの総合周産期母子医療センター16の地域周産期母子医療センターがありますが、県内のJR東海道線沿線の公的病院の中では唯一、周産期母子医療センターの認定を受けられないでいます。

センターの認定にはいくつかの条件があります。ほとんどの要件は満たしていますし、周産期母子医療センターの肩書はなくても、それと同等もしくはそれ以上の医療を提供できると、スタッフ一同、自負しています。

被害を最小限に食い止める

産科医療は、自動車のシートベルトや、自動ブレーキシステムのようなものです。大多数の妊婦さんは、妊娠中に合併症を起こすことなく、自然な分娩を経験し、順調に育児を進めていくことができます。

ただ、なかには、交通事故のようなアクシデントに見舞われ、母体、胎児が命の危機にさらされることがあります。そのようなときにも、きちんとシートベルトを付けていれば、被害を最小限に食い止めることができるように、母体・胎児の最悪の事態を避けることができます。危機的状態に陥る前に状況の悪化を予測し食い止めることが、産科医療の要諦(ようてい)であると、私たちは考えています。そのために私たちは、最新の診断機器を用い、他科、他の職種のスタッフとも密に連携をとることで、母児の安全を確かなものにしています。そして「そばにともに寄り添い、出産の感動を共有」するべく、スタッフ一丸となって、努力を続けていきます。

更新:2024.10.29