消化管出血は内視鏡で治療できます

平塚市民病院

消化器内科

神奈川県平塚市南原

消化管出血のときに何が起きているのでしょうか?

人間の体は口から肛門まで1本の管(消化管)でつながっており、その途中で何らかの病気があり出血することがあります。出血すると、どんなことが起きるのでしょうか。血液や血液の混じる食事を吐いてしまう吐血や、黒色便や血便、貧血症状でだるくなり息切れや血圧低下による意識障害もあります。

出血部位で大きく上部と下部に原因を分けて考えます。

上部消化管(食道、胃、十二指腸)の出血があると、吐血や、時間の経過とともに消化された黒い便の排便があります。下部消化管(小腸、大腸)の出血は、血が混じった便や真っ赤な排便で気がつきます。

消化管出血と疑われたときの対応は?

消化管出血を疑った場合は、積極的に内視鏡を施行し、出血の原因を確認することが重要です。いわゆる胃カメラ、大腸カメラで診断治療します。

患者さん本人や家族に、消化管出血に対する内視鏡治療の必要性(メリットとデメリット)、治療手技の概要、合併症、偶発症に関して事前に説明しています。終了後には結果を説明し、再発や追加治療の必要性、今後の予定に関しても説明しています。

どんな治療があるのでしょうか?

上部消化管出血(吐血、黒色便)=胃カメラでの対応

食道、胃、十二指腸までの上部消化管では①食道や胃の静脈瘤(じょうみゃくりゅう)(コブ)の出血、②食道炎食道潰瘍(かいよう)出血、③胃十二指腸潰瘍出血、④粘膜の血管異常部からの出血、⑤がん出血など、さまざまな原因があります。

食道や胃の静脈瘤出血(写真1)は、肝疾患が進行し肝硬変が基礎疾患にある病態です。

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写真1 食道静脈瘤出血

静脈瘤に硬化剤を注入し、コブを固める硬化療法(EIS)や静脈瘤をゴムで縛り結んでコブをつぶす静脈瘤結紮術(けっさつじゅつ)(EVL)(写真2)、静脈瘤に組織接着剤を注入するCA(α -cyanoacrylate monomer)法のほか、クリップやレーザーなどの熱凝固法で止血対応しています。

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写真2 食道静脈瘤出血に対し静脈瘤結紮術(EVL)止血

出血性の食道胃十二指腸の潰瘍(写真3)は、ピロリ菌の感染や消炎鎮痛剤を内服している方、血液をさらさらにする必要性の病気があり、抗血栓薬を使用する方によく見受けられる病態です。

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写真3 出血性胃潰瘍

エタノールやエピネフリンという薬剤を出血血管付近へ注入止血する局注止血法、出血する血管を直接クリップで閉じる機械的止血法(写真4)、アルゴンプラズマガスや止血鉗子(かんし)を利用した熱凝固法もあります。ほかの疾患も、内視鏡で的確に診断し病状に応じた止血方法をとります。

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写真4 出血性胃潰瘍に対してクリップによる機械的止血

下部消化管出血(血便)=大腸カメラでの対応

大腸を中心とした下部消化管では①大腸憩室(けいしつ)出血、②出血性直腸潰瘍(写真5)、③放射性腸炎、④粘膜血管異常部の出血、⑤腫瘍(しゅよう)からの出血、⑥虚血性(きょけつせい)腸炎などがあります。

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写真5 出血性直腸潰瘍

そのまま止血剤の点滴で対応することもありますが、血圧低下や全身状態に影響のあるときが内視鏡的消化管止血術の適応です(写真6)。CTなど画像検査も併用し診断に努め、各種止血術を選択しています。

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写真6 出血性直腸潰瘍に対して機械的クリップ止血

憩室出血、潰瘍出血の勢いのある出血は先述したクリップ止血術が第一選択です(写真6)。ほかにも、局注療法、熱凝固療法などを選択し、止血に努めます。粘膜の変化による染み出るような出血は、アルゴンプラズマで粘膜を直接焼くこともあります。

内視鏡による止血術で止血できれば体への侵襲(しんしゅう)(ダメージ)はさほどありませんが、内視鏡での止血が困難なときは放射線科と連携し、血管内から止血するカテーテル法や、外科と連携し、緊急手術にも対応しています。

当院は毎日24時間、救命救急センターや近隣の開業医の先生方とも連携し、緊急内視鏡対応の準備をしています。先述の症状や心配事がある方は、来院し医師に相談してください。適応があれば、内視鏡対応する体制を整えています。

更新:2022.08.08