大腿骨近位部骨折と地域連携パス

平塚市民病院

整形外科 地域医療支援部

神奈川県平塚市南原

大腿骨近位部骨折とは?

運動器の病気やけがは、手術などの治療のほかに、患者さん本人が主体となって行うリハビリが欠かせません。大腿骨近位部(だいたいこつきんいぶ)骨折は脚のけがですので、歩けない状態になります。手術自体はそれほど難しいものではなく、翌日からでも歩いて問題ない強度は得られます。しかし、高齢者に特有という特徴から、受傷してから手術が終わって動けるようになるまでのたった数日の間に、骨折以外の体のあらゆるところが急激に衰えてしまいます。最終的にちゃんと歩けるようになるかどうかは、このリハビリにかかっていると言っても過言ではありません。

リハビリに関しては、当院のような総合病院よりも、充実したリハビリができるリハビリ専門病院(回復期病院)に転院して行うのが望ましいです。

パスとは?必要なものなの?

パスとは、スケジュール表のようなものです。以前は、「我々の身体には個人差があり、それぞれに合わせた治療が必要」と考えられていました。しかし、病気によっては治療のうちで共通化できる部分が多くあり、またそれを早く行うべきであることが分かってきました。パスでは、発症(入院)したその日に、退院する日までの予定が決められています。これに従って治療を行い、日々の結果を残していくことで、最終的にベストな成果を挙げられることになるのです。

平塚市周辺地域の大腿骨近位部骨折“地域連携パス”

地域連携パスではない通常のパスは、病院ごとにそれぞれの実情に合わせて作成され、それぞれの病院で運用して完結するものです。それぞれの病院で違うものになり、また通常は転院先のことは含まれていません。各医療機関はそれぞれのパスでベストな治療をしますが、その前後に治療をする医療機関の都合はあまり考慮されていないのが現状です。

一方、地域連携パスでは、初期治療をする病院(急性期病院)、リハビリをする回復期病院、さらには退院後のかかりつけ医を、お互いの立場の都合を考慮して結びつけるという工夫を加えます。各医療機関のベストな治療ではなく、患者さんにとってのベストな治療に近づくわけです。

大腿骨近位部骨折の例で言うと、急性期病院では術後の経過が十分に安定してから転院させたいという「親心」が働きますが、むしろその経過観察を回復期病院にお任せすることで、より充実したリハビリをより早く行えるようになります。万が一、転院後に経過が思わしくなければ、急性期病院がいつでも対応するという態勢をとります。

すべての患者さんに一律でパスを適用するわけではありません。急性期病院からそのまま自宅へ退院する患者さんもたくさんいます。連携先へ転院する患者さんも、原則として自宅へ退院する予定の方が対象となります。家族と同居していれば、自宅に戻ってからも家族に頼れるので、回復途上の状態でも当院からそのまま退院して大丈夫です。退院してからさらに回復し、いずれ自立できるようになるでしょう。しかし、独居となると最初から自立する必要がありますので、回復期病院へ転院して、充実したリハビリを行うのが望ましいでしょう。そのほか、患者さんの背景や希望も考慮した上で適用を決定します。

平塚市周辺地域の大腿骨近位部骨折地域連携パスは、当院が急性期病院として主導して運用しています。範囲は平塚市、茅ヶ崎市、秦野市、伊勢原市、厚木市、海老名市にわたります。急性期病院として当院を含む2病院、回復期病院として10病院、ほかに4施設で成り立ちます。これらの医療機関で、年3回の合同会議を開催して情報共有や症例検討をし、必要に応じてパスの改良を図ります。パスは紹介状の役割を兼ねます。各段階の医療機関が共有し、1つのパスに看護記録やリハビリ記録などの必要な情報を追加記入し、次の医療機関へ引き渡していきます。

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図 大腿骨近位部骨折地域連携パスのシート(上:患者用と、下:医療者用)

当院の実績(2016年度)としては、大腿骨近位部骨折の患者数は195人、うち連携先の回復期病院へ転院した患者数は70人(36%)に上ります。平均して術後23日で転院しています。そのほかは、当院のリハビリで十分な機能回復が得られて自宅へ退院したり、元の施設で受け入れが可能な状態まで回復して退院されたりしています。

更新:2024.08.28

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