ちょっと待った!そのリンパ節は取る必要がある?不必要なリンパ節切除をしない体にやさしい乳がん手術

平塚市民病院

乳腺外科

神奈川県平塚市南原

乳がんの手術治療

乳がんの治療には薬物療法、放射線療法、手術療法などがありますが、最も基本の治療は手術療法です。乳がんの手術は、乳房の病巣(原発巣(げんぱつそう)といいます)に対する手術と、脇(腋窩(えきか)といいます)のリンパ節に対する手術で構成されています。

リンパ節の手術は、昔から腋窩リンパ節郭清(かくせい)といって、リンパ節をすべて切除することが行われてきました。ですが、このリンパ節郭清を行うと術後に、①運動機能障害、②知覚障害、③リンパ浮腫(ふしゅ)などの後遺症を生じる可能性が高くなります(表1)。この後遺症をできる限り避けるために現在行われているのが、センチネルリンパ節生検(せいけん)という手術方法です。ただ、このセンチネルリンパ節生検は、手術前のさまざまな画像検査で腋窩リンパ節の腫(は)れがないと診断されている患者さんが対象となります。明らかにリンパ節に転移がある患者さんは、従来通りに腋窩リンパ節郭清を行うことになります。

運動機能障害:肩関節拘縮や腋窩の瘢痕による上肢の挙上障害。
知覚障害:感覚神経の切断、損傷により、痛み、切除部位の皮膚知覚低下が腋窩から上腕内側に及ぶ。
上肢のむくみ(リンパ浮腫):上肢のリンパ液の流れが悪くなることにより起こる。
手術時間が長くなり、出血量も増える。入院期間も長くなる。
表1 腋窩リンパ節郭清の不利益(合併症・後遺症)

当院の過去のセンチネルリンパ節生検施行率は、年度により若干異なりますが、おおむね70〜80%です。

センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節とは、乳がんが最初に転移する腋窩のリンパ節のことをいいます(図)。乳房にできた乳がんが、初めにセンチネルリンパ節に転移して、そこからさらに周囲のリンパ節に転移すると考えられています。

イラスト
図 がんからセンチネルリンパ節への転移

そこで手術時にこのセンチネルリンパ節を探し出して、リンパ節の中にがん細胞がいるかどうかを顕微鏡(病理検査)で調べます。もしセンチネルリンパ節にがん細胞がいなければ、その周りのリンパ節にもがん細胞はいませんから、それ以上のリンパ節を切除しなくてすむわけです。

このセンチネルリンパ節生検により70~80%の患者さんが腋窩郭清をせずにすむようになりましたが、残りのおよそ20〜30%の患者さんでは転移が見つかり、引き続いて残りのリンパ節を切除する手術が行われてきました。

さらなる縮小を目指して

現在ではこのセンチネルリンパ節生検が盛んに行われるようになり、さらに新しい知見が加えられるようになってきました。最新の臨床試験によって、ある条件を満たした患者さんは、たとえセンチネルリンパ節に転移が見つかっても、そのほかのリンパ節を取らなくてよいと考えられるようになってきました(表2)。

センチネルリンパ節の転移が微小転移(2mm 以下)の場合。
センチネルリンパ節の転移がマクロ転移(2mm よりも大きい)でも、
・ 術前薬物療法を行っていない。
・ 乳房温存術もしくは乳房切除術を行う。
・ 腫瘍の大きさが 5cm 以下で皮膚への浸潤がない。
・センチネルリンパ節への転移が 2 個以下。
・術後乳房および領域リンパ節への放射線照射が可能である。
・ 術後薬物療法を行うことができる。
表2 センチネルリンパ節以外のリンパ節を取らなくてもよい条件

実際にセンチネルリンパ節に転移が見つかった患者さんに対して、追加でリンパ節を切除しても、残りのリンパ節には転移がないことが多くあります。当院で手術を行った半数以上の患者さんは、センチネルリンパ節以外に転移はありませんでした。センチネルリンパ節以外に転移がなかった患者さんにとって、リンパ節郭清は必要なかった手術となります。では、転移がある場合はどうなのでしょうか?

臨床試験の結果により、仮に残りのリンパ節に小さながんの転移があったとしても(体の中に残っているとしても)、術後に放射線治療や薬物療法(抗がん剤、ホルモン剤など)を行うことにより再発を抑えられると考えられています。そのため当院では、この条件を満たした患者さんには術前によく説明し、患者さんの同意が得られれば、センチネルリンパ節に転移が見つかってもそれ以上のリンパ節切除はしないようにしています。不必要なリンパ節切除をしないで合併症や後遺症を減らす、体にやさしい乳がん手術を目指すのが当院の治療方針です。

今後はさらに一歩進んで、リンパ節を切除しなくてすむ患者さんの条件を広げることができるかを調べるために、ほかの医療機関と協力して臨床試験を行う予定です。

更新:2024.01.25