胃腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術について

平塚市民病院

消化器外科

神奈川県平塚市南原

胃の腫瘍とは?

胃にできる腫瘍(しゅよう)には、胃がんのほかに、「胃粘膜下腫瘍(いねんまくかしゅよう)」があります。胃粘膜下腫瘍は胃の壁の中にできる腫瘍で、悪性のものと良性のものがありますが、2㎝を超えるものは悪性の可能性があり、基本的には切除をして、腫瘍の種類を確定することが必要です。

胃がんでは、胃と、がんが転移する可能性のある周囲のリンパ節を切除する必要がありますが、胃粘膜下腫瘍では、腫瘍のみを切除すれば根治できる場合も少なくありません。一方で、胃は肝臓と違って、切除した後に再生することはありません。広範囲に胃を切ったり、変形をきたしたりすると、消化機能に影響が及びます。そのため、胃の壁を切離する場合には、余分な胃の壁を切ることなく、最小限の切除にとどめることが大切です。

胃粘膜下腫瘍の治療

胃粘膜下腫瘍のうち、2㎝から5㎝までの比較的サイズが小さい腫瘍について、最近新しい手術の方法が開発され、2014 年からは保険診療で行えるようになりました。胃の切除範囲を最低限とし、変形を少なくすることができる手術で、「腹腔鏡(ふくくうきょう)・内視鏡合同手術」と名前がついています。

腹腔鏡手術とは、お腹(なか)の空間にガスを入れて膨(ふく)らまし、おへそと数か所の孔(あな)から、カメラや器具を入れて行う手術で、傷が小さく、術後の回復が早いと考えられている方法です。腹腔鏡・内視鏡合同手術では、この腹腔鏡と口から挿入する内視鏡(胃カメラ)の両方を用います。

胃の粘膜下腫瘍は、胃の壁の中にあるので、胃の外側からは場所がはっきり分かりません。従来の手術では、胃の外側から、腫瘍のおおよその位置を確認してから胃の壁を切離していたので、余分な胃の壁まで取れてしまっていました。腹腔鏡・内視鏡合同手術では、まず胃の内側から、内視鏡(胃カメラ)を用いて腫瘍の部位を確認して、胃の壁にマークします。その後、内視鏡の電気メスで胃の壁を切り、その後は腹腔鏡を用いて胃の外側から胃の壁を切離します。腫瘍はくり抜いた胃の壁の中に含まれることになります。胃壁を切除した後は、穴を縫(ぬ)って閉鎖して手術終了となります。

この方法ですと、腫瘍ぎりぎりで胃の壁を切離でき、胃の変形を少なくできます。結果、術後の障害を抑えることにつながります。

実際の症例

胃の入り口(噴門(ふんもん))すぐ近くに粘膜下腫瘍ができ消化器外科部長山やま本もと聖せい一いち郎ろう60科別レクチャー平塚市民病院――市民のニーズに応える最新治療た患者さんです。「写真1」は手術前の内視鏡写真です。従来の方法でこの腫瘍を切除しようとすると、切除した後に胃の壁を縫い合わせる際、胃の入り口が狭くなる可能性がありました。腫瘍のサイズは3㎝程度でしたので、腹腔鏡・内視鏡合同手術を行いました。

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写真1 胃にできた粘膜下腫瘍

最初に内視鏡で胃の内側から腫瘍の場所をマークして、胃の壁に切り込みを入れました(写真2、3)。その後、腹腔鏡で胃の外側からそのマークに沿って切開を入れて、腫瘍を切除しました(写真4)。胃の壁に開いた穴は、胃の外側から縫っています(写真5)。出来上がりを内視鏡で観察すると、「写真6」のとおり、切除前と比較しても、変形がほとんどありません。切除した標本の割面の写真を見ると、腫瘍ぎりぎりで取り切れていることが分かります(写真7)。

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写真2~5腹腔鏡・内視鏡合同手術の様子
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写真6 腫瘍を摘出した後の内視鏡写真
写真7 摘出した検体

患者さんは手術の次の日から水を飲むことができ、食事指導を受けた後、5日で退院しました。

手術から3か月後に、胃の内側から内視鏡で観察をしましたが、変形なく、きれいに治っています(写真8)。また、術前と術後で胃のバリウムの検査をして胃の輪郭(りんかく)を比べても、ほとんど変形がありません(写真9)。患者さんは通常の食事をされていて、特に症状はありません。

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写真8 術後3か月の内視鏡写真
写真9 術前と術後の胃のバリウム造影像

当院での「腹腔鏡・内視鏡合同手術」

腹腔鏡・内視鏡合同手術は、外科医が行う腹腔鏡手術と、内科医が行う内視鏡手術の利点を組み合わせた手術です。

当院では、外科医と内科医が密接に連携をして、診療を行っていますので、胃粘膜下腫瘍と診断された患者さんに対しては、積極的にこの手術を行っています。もともとの持病や、腫瘍の様子によっては、この手術ができない場合もありますが、胃粘膜下腫瘍と診断された際には、一度ご相談いただければと思います。

更新:2024.01.25