脊髄刺激療法によるパーキンソン病の痛みの改善

藤田医科大学病院

脳神経内科 麻酔科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

パーキンソン病の痛みの頻度

パーキンソン病において、ふるえ、筋や関節のかたさ、動作の遅さ、バランスの悪さなど運動症状を認めることはよく知られています。

一方、代表的な非運動症状としての痛みの出現頻度(ひんど)も高く、以前、国内の19施設で行った痛みの調査では、パーキンソン病の患者さんは78.6%、病気を持っていない方は49.0%と、パーキンソン病の患者さんで高頻度に痛みを認めました。特に腰から背中にかけての痛みが多いことが特徴でした。痛みは生活の質の低下に大きく影響するため、適切な治療が必要となります。

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図1:パーキンソン病で認める痛みの特徴とその治療

パーキンソン病の痛みの治療

パーキンソン病での痛みの原因は複数あるため、まずは痛みの原因が何かを明らかにし、原因に応じた治療方法を選択します。

運動機能の悪いとき(薬の効果が切れているとき)に痛みを認める場合には、まず運動症状に対する内服を調整し、薬の効果が持続することで痛みが消失する患者さんがいます。また、筋肉や骨の痛み、皮膚の痛みに使用する非ステロイド性の痛み止めなどが、神経自体を圧迫している痛みに対しては、プレガバリンと呼ばれる薬や抗うつ薬などが用いられることがあります。こうした治療に抵抗性の痛みが現れる患者さんに、脊髄(せきずい)刺激療法が有用な場合があります。

脊髄刺激療法とは

脊髄刺激療法は、体内に埋め込まれた装置から脊髄に微弱な電気刺激を送ることで、痛みの信号が脳に伝わりづらくなり、その治療効果を発揮すると考えられています。脊髄に刺激を与えるために、脊髄と背骨の間にある硬膜外腔(こうまくがいくう)と呼ばれる隙間にリードと呼ばれる導線を入れ、導線に電気振動を伝えるペースメーカーと類似した刺激装置を腰などに埋め込みます。

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図2:脊髄刺激療法の実際

手術は、2回に分けて行い、1回目は、リードのみを挿入して痛みが軽くなるかを確かめる試験刺激を行い、効果が確認された場合には、本手術で装置を埋め込みます。装置を埋め込んだ後は、調整用の機器を使って、刺激を調整することで痛みをコントロールしていきます。

脊髄刺激装置の特徴

現在、用いられる刺激装置は、以前に比べてずいぶん小型化されています。その重さは30g程度と大変軽量で、患者さんの負担軽減につながっています。また、体の向きによって刺激の位置や程度が変わらないような仕組みも有しているため、安定した治療効果を期待できます。これらの機器によって神経や脊髄が傷つくことはありませんし、必要に応じて埋め込んだ機器を抜いて、元の状態に戻すこともできます。

生死にかかわるような危険性は極めてまれですが、①治療効果が不十分である、②刺激の位置のズレが生じてしまい治療効果が減ってしまう、③刺激自体が不快に感じる、④埋め込んだ場所の違和感が出る、⑤局所の感染が起こる場合などがリスクとして考えられます。詳しくは担当医にお尋ねください。

脊髄刺激療法の効果

脊髄刺激療法によって、どの程度痛みが和らぐのかは患者さんによって異なります。一般には痛みの程度が50%以下になると治療効果があると考えられています。治療効果の持続期間も患者さんによって異なります。1回目の手術の試験刺激のときに、治療効果を確認することが大切です。いずれにしても、現行の治療で痛みに対する効果の出ない患者さんにとっては、かなり期待のできる治療であると位置づけられています。

脊髄刺激療法の最近の話題

脊髄刺激療法自体は決して新しい手法ではありません。開発されてから30年以上が経過し、国内でも1992年から保険適用になっています。では、何故、あらためてパーキンソン病に対して脊髄刺激療法なのでしょうか?

この理由として、ここ数年の研究で、脊髄刺激療法が歩行障害や運動症状全般にも有用である可能性が報告されてきたことが挙げられます。もちろん、痛み以外の治療を目的で脊髄刺激療法を行うことはないのですが、痛みの改善に加えて、パーキンソン症状の改善も期待できる可能性があるのです。現在、私たちは運動症状の改善効果について、痛みと併せて評価しているところです。

最善で最新の治療提供のために

私たちは、最新で最善の医療を提供できるように努力を重ねています。パーキンソン病に対する脊髄刺激療法は、難治性の痛みの改善を期待できるだけではなく、運動症状の改善効果も期待できる可能性があるため、最近、とても注目されています。その効果を客観的に明らかにするとともに、どのような患者さんに有用であるのかについて着目して研究も進めています。

更新:2024.10.08