高性能な医療機器を駆使した脳腫瘍手術
山梨大学医学部附属病院
脳神経外科
山梨県中央市下河東

脳腫瘍(のうしゅよう)とは?
脳腫瘍は乳幼児から高齢者まで、幅広い年代で発症する病気で、とても多くの種類があります。
代表的な脳腫瘍として、髄膜腫(ずいまくしゅ)、神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)などがあり、いずれも手術が第一選択の治療となります。手術だけで治療が不十分な場合には、化学療法や放射線治療を併用することになりますが、やはり手術で腫瘍を全部摘出できるかどうかが、治療成績を左右します。
一方で、脳は重要な機能をもっており、これを障害してしまうと、運動麻痺や言語障害などが生じてしまいます。現在、脳の障害を回避し、安全に腫瘍を摘出するためのさまざまな医療機器が開発されています。当科ではそれらを駆使して治療を行っています。
脳腫瘍の症状
脳は頭蓋骨(ずがいこつ)に囲まれていて、余分なスペースがほとんどありません。そのため、脳腫瘍が大きくなると頭蓋骨内部の圧力が高まって脳が圧迫され、頭痛や吐き気が起こります。これを頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)」と呼びます。この圧は睡眠中に高くなるので、朝起きたときに症状が強く出ます。
一方、腫瘍の部位によって異なる「局所症状」は、本当にさまざまです。運動麻痺や言語障害に加え、意欲や自発性の低下、記憶力低下、てんかん発作などが起こります。脳神経の障害では、視力視野障害や複視(ふくし)(ものが二重に見える)、聴力障害、嚥下(えんげ)障害(上手く飲み込めない)などがあります。症状が進行すると意識が悪くなり、昏睡状態となって、最悪の場合は死に至ることもあります。
脳腫瘍の診断
脳腫瘍の診断では、まずはMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影)といった画像検査が行われます。
しかし、脳腫瘍にはさまざまな種類があり、最終的な診断は、腫瘍組織を顕微鏡で詳しく調べる病理検査によって決まります。良性腫瘍は、脳との境界がはっきりしていて増殖力が低く、悪性腫瘍は脳に浸潤(しんじゅん)し(広がっていき)、増殖力が高いことが特徴です。
悪性の場合、後述の後療法が必要になります。腫瘍が脳の深い部位にあり、摘出が難しい場合、腫瘍の一部を特殊な針などで採取して調べる生検術が行われることもあります。
脳腫瘍に対する治療
頭蓋内胚細胞腫(ずがいないはいさいぼうしゅ)や中枢神経系悪性リンパ腫という腫瘍を除いて、ほとんどの脳腫瘍で手術が最も有効な治療となります。
手術では、できる限り腫瘍を取り除くことが基本です。脳組織や脳神経は再生しませんので、傷ついてしまうと後遺症が残ってしまいます。そのため、できるだけ周囲の脳組織を傷つけないように腫瘍を摘出する必要があります。高性能の手術用顕微鏡や内視鏡を使って、丁寧に手術を行うことが重要です。
良性の腫瘍は、基本的に脳の外側(実質外)に発生し、腫瘍と脳の間をはがすことができます。一方、悪性であることが多いグリオーマは脳の中(実質内)に生じて、脳組織にしみこむように広がっていくため、腫瘍組織と正常組織との境界がわかりにくいのが特徴です。そのため、安全にできる限り腫瘍を取り除く工夫がなされています。
その工夫の1つが、5-アミノレブリン酸(5-ALA)という薬を用いた術中蛍光診断です。術中に、病巣に青色のレーザー光を照射すると悪性脳腫瘍が赤く光るので、できる限り多くの腫瘍を摘出することが可能になります。
もう1つは、手術している部位をリアルタイムで画面に示して誘導する「ニューロナビゲーションシステム」です。カーナビのように、脳の中のどの部位を触っているのかがわかります。また、手術中にMRIを撮影して腫瘍の位置や摘出度を随時確認する「術中MRI」は、グリオーマの手術で特に威力を発揮します。

患者さんは動かず、MRIが移動して撮影します
手術以外の治療法として、放射線治療や化学療法があり、これらを組み合わせて脳腫瘍を治療しています(図1、2)。


更新:2024.04.26