スギ花粉症(アレルギー性鼻炎)増えている理由と最新の治療

山梨大学医学部附属病院

頭頸部・ 耳鼻咽喉科、 アレルギーセンター

山梨県中央市下河東

花粉症とは?

花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉に対するアレルギー反応により、さまざまな症状が起きる病気です。くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった鼻の症状(アレルギー性鼻炎)が中心ですが、眼のかゆみや充血、涙目などの眼の症状(アレルギー性結膜炎)を持つ患者さんも多くいます。

花粉症を英語でなんというか知っていますか?英語では「hay fever」といいますが、枯草熱(こそうねつ)と訳されることもあり、鼻や眼の症状のみでなく、ぼーっとする、イライラするなど、全身症状を示す患者さんもいます。今回は、なぜスギ花粉症の患者さんが増えているかを考えながら、最新の治療についても紹介したいと思います。

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なぜスギ花粉症の患者さんが増えているの?

スギ花粉症が増えてきた理由の1つに、スギ花粉が増えていることがあげられます。日本では、高度経済成長に伴い、1950年代から全国の山々に多くのスギが植林されました。そのスギたちは成熟し、花粉をたくさん飛ばすまで成長しましたが、安価な木材が輸入されるようになったことにより、多くのスギ林が伐採され木材として使用されることなく、放置されています。スギ花粉を多く飛ばすまで成長したスギ林が増えていることや、温暖化などの気候変動も、スギ花粉が増えた原因と考えられています。

もう1つの理由として、スギ花粉症の発症が低年齢化していることが考えられています。スギ花粉症は、いったん症状が出るようになってしまうと、自然とよくなることは非常にまれです。約20年前は、スギ花粉症は大人の病気でした。最近の調査では、幼稚園児や小学生でも発症する患者さんが増えており、大人になってもよくならないので、患者さんが増える一方であると考えられています。

ただし、なぜ低年齢で発症するのか?また、山梨県はスギ花粉症の有病率が全国1位ですが(1)、理由はなぜなのか?まだまだよくわからないことがたくさんあります。

スギ花粉症を根本的に治す治療は?

花粉症の治療では、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状には抗ヒスタミン薬などの内服薬や、ステロイドなどの点鼻薬が使われます。目のかゆみや涙目など目の症状には、点眼薬が使われますが、あくまでも症状を抑えるだけの治療(対症療法といいます)であり、花粉症自体が治るわけではありません。

花粉症を根本的に治す可能性がある治療法に、免疫療法があります。昔は減感作(げんかんさ)療法といわれ、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を皮下(ひか)に注射する治療法(皮下免疫療法)が中心でした。しかし、注射部位の痛みや、まれに全身性の副作用を起こすことがあり、広まりませんでした。

1990年代にヨーロッパを中心に安全性の高い舌下(ぜっか)免疫療法が開発され、日本でも2014年からスギ花粉症に対する舌下免疫療法が導入されました。アレルゲンを錠剤にし、舌の下において、1分間口の中に含み、その後飲み込むという治療法です。

舌下免疫療法は、多くの患者さんで症状が軽くなり、薬を使わなくてもほとんど症状がなくなってしまう方もいます。ただし、花粉が飛んでいないときも毎日、3〜5年間治療する必要があります。また、ごく一部に治療効果を認めない患者さんもいるため、事前に効果を予測することができないなど、さらなる進歩が期待されています。

花粉症に対する最新治療

花粉症をはじめとするアレルギーは、なぜ起こるのでしょうか。スギ花粉症患者さんの体の中では、スギ花粉に対するIgE抗体が作られます。このIgE抗体が体の中にいる肥満細胞の表面にくっついて、そこにスギ花粉がやってくると、反応が起きてヒスタミンなどの化学伝達物質が分泌され、アレルギー反応が引き起こされます。鼻の中にスギ花粉を吸い込むことによりヒスタミンが分泌されると、くしゃみや鼻水が出たりします。

新しい花粉症の治療薬である抗IgE抗体は、スギ花粉に対するIgE抗体が肥満細胞の表面にくっつくのを防ぐことにより、花粉がきても肥満細胞からヒスタミンが分泌されなくなります(図)。抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬で治療しても効果が不十分な患者さんに対して、上乗せ効果があることがわかっています。

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図 抗IgE抗体の作用機序(仕組み)

ただし、重症な方にしか使うことができなかったり、注射の治療なので痛みがあったり、治療費が高価(数万円)であったり、手軽に使用できない治療法でもあります。

では、元々IgE抗体とは何をしていたのでしょうか?本来、IgE抗体は、腸における寄生虫感染の防御のために働いていました。腸に線虫などの寄生虫がやってくると、ヒトは寄生虫に対する特異的IgE抗体を産生し、寄生虫の腸への定着を防いできました。

そもそも寄生虫に対する防御のために作られるはずのIgE抗体が、なぜ寄生虫ではなくスギ花粉などのアレルゲンに対して作られてしまうのか?その原因は明らかになっていませんが、「衛生仮説」といって、最近では衛生環境が整うことにより、寄生虫感染をはじめ細菌感染なども減ってきているので、それが原因でアレルギーが増えているともいわれています。衛生環境とアレルギーには何らかの関係があると考えられていますが、まだすべては明らかになっていません。

[出典](1)松原篤ほか「鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較):速報̶耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として」、『日本耳鼻咽喉科学会会報』123巻6号,p.485-490、2020年

更新:2024.04.26