子宮体がんの低侵襲手術

山梨大学医学部附属病院

産婦人科

山梨県中央市下河東

子宮体(しきゅうたい)がんとは?

子宮にできるがんは、大きく2つに分けられます。子宮の出口にできる子宮頸(しきゅうけい)がんと、赤ちゃんが育つ場所にできる子宮体がんです(図1)。

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図1 子宮頸がんと子宮体がんの違い(画像提供:ピクスタ)

子宮体がんの主な症状は、不正性器出血(月経以外で性器から出血すること)です。エストロゲンという女性ホルモンが過剰な状態、肥満、高血圧、糖尿病、また、Lynch(リンチ)症候群などの遺伝性疾患がリスク因子といわれています。

国内の患者さんは増加傾向にあり(図2)、2018年は約17,000人が新たに罹患(りかん)しました。女性では部位別がん罹患率の第9位となっています(1)。近年、その治療法が変化してきています。

[出典](1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)、2018年

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図2 部位別罹患数(全国推計値)年次推移子宮体部
(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「グラフデータベース」)

早期発見のためにできること

子宮体がんは、ほかのがんと同様、早期発見と早期治療が理想的ですが、すべての人を対象に「検診」をする意義は確立されていません。しかし、子宮体がんを疑う症状がある場合、すなわち、「月経じゃないのに性器出血がある」「閉経したのに性器出血がある」といった場合(図3)は、放置せず、すぐに近くの産婦人科を受診することをお勧めします。

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図3 不正性器出血かなと思ったら
(画像提供:ピクスタ)

また、血縁者の中に比較的若い年齢で、大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんを患った方が多い場合には、Lynch(リンチ)症候群という遺伝性疾患を受け継いでいる可能性があります。その場合、子宮体がんを発病しやすくなりますので、まずはお近くの産婦人科を受診し、ご相談ください。

低侵襲手術

子宮体がんの治療の基本は、手術となります。早期に発見されれば、子宮を摘出することで完治が期待できます。さて、その手術の方法が、近年、大きく変化しました。開腹手術から、「低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)(体への負担が少ない手術)」と呼ばれる腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)、ロボット支援手術への移行です。

国内では、子宮体がんに対して、2014年から腹腔鏡手術、2018年からロボット支援手術が保険適用となりました(がんがまだ子宮体部に留まっていると想定される場合に限ります)。開腹手術ではお腹(なか)の大部分を縦に大きく切開していたのが、低侵襲手術では、5か所の小さい創(きず)で済むようになりました(図4)。

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図4 手術方法ごとの創の違い

低侵襲手術のメリットは、創が小さいことによる「見た目の綺麗さ」だけではありません。手術する臓器をカメラで拡大することで細やかな作業ができるため、出血量が少なくて済みます。翌日から歩くことができるので、腸閉塞(ちょうへいそく)や血栓症(けっせんしょう)など、さまざまな合併症のリスクが低下します。また、手術後の経過が順調であれば数日で退院が可能で、早期に社会復帰することができます。もちろん、「がんを治す」という最も重要な点についても、開腹手術と同等ということがわかっています。

ロボット支援手術のことは、まだ知らない方も多いと思います。決して、機械が自動的に手術をしてくれるわけではありません。腹腔鏡手術の一種といえます。従来の腹腔鏡手術と同様に、お腹に5つの小さな創をつけます。そこから、カメラや細長いロボットアーム(写真1)を挿入します。同じ部屋に置かれている操作用の機械を私たち産婦人科医が動かすことで、お腹の中でロボットアームが人の手と同じような動きをしてくれます(写真2)。国内での歴史はまだ浅いですが、保険適用を機に手術件数が急速に増加しました。

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写真1 手術で用いる鉗子を装着したロボットアーム
(写真提供:インテュイティブサージカル合同会社)
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写真2 ロボット支援手術システム
(写真提供:インテュイティブサージカル合同会社)

手術後の治療

手術後、子宮など、摘出したすべての臓器を顕微鏡で調べることで、がんの種類(組織型)や進行期(ステージ)が決定します。手術がうまくいったとしても、体の中にがん細胞がわずかに残っている可能性があるため、再発リスク(悪性度)の低い一部の場合を除き、再発予防目的での抗がん剤治療を勧めています。標準的な治療指針に従い、2種類の薬を組み合わせることが多く、これらを点滴で投与します。数か月で治療は完了し、その後は、1~3か月に1回の外来通院で、経過観察をしていきます。

最近では、再発例に対して、PD-1阻害薬と呼ばれるペンブロリズマブ、マルチキナーゼ阻害薬と呼ばれるレンバチニブという新しい薬が登場しており、生存率の向上が期待されています。

更新:2025.01.30