腰椎椎間板ヘルニアに対する新規治療の開発
山梨大学医学部附属病院
整形外科
山梨県中央市下河東

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアとは?
青壮年層に罹患率(りかんりつ)が高い、腰椎椎間板ヘルニア(約20万人/年)に対して根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)的な治療を行い、症状の早期改善および早期社会復帰を達成する薬剤を開発します。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究プログラム(支援拠点:慶應義塾大学)の支援を受けて、以下を目的として、当院および慶應義塾大学病院において、医師主導治験を行います(本学プレスリリース)。
- 腰椎椎間板ヘルニアの患者さんに対する、ヒトリコンビナントMMP-7(KTP-001)を用いた椎間板内薬物注入療法の、安全性と忍容性(薬による副作用の程度)を確認
- 追加で薬剤の有効性についても予備的に調査を行い、臨床的なPOC(Proof of concept:新しい発見や概念の実証)を取得

腰椎椎間板ヘルニアについて
背骨(脊柱(せきちゅう))は、椎骨(ついこつ)という骨が積み重なってできていて、椎骨の間でクッションのような働きをする組織を椎間板(ついかんばん)といいます(図1)。椎間板は、外側部分を構成する線維輪(せんいりん)と中心部にある髄核(ずいかく)からできています。

腰の椎骨(腰椎(ようつい))の間にある椎間板は、日常生活でも負担がかかりやすく、加齢などの影響で変性し、そのため線維輪に亀裂が生じて、変性した髄核が飛び出すことがあります。この飛び出した部分を、ヘルニアと呼びます(図2)。

腰椎椎間板ヘルニアが周囲の神経に接したり、圧迫したりすることで刺激となり、腰や臀部(でんぶ)、足先まで響く下肢(かし)(太もも、すねやふくらはぎ、足)の痛みやしびれといった症状が発生します。痛みは発症直後が最も強く、安静時にもあります。
有病率は人口の約1%程度で、20〜40歳代の男性に多いです。
腰椎椎間板ヘルニアの検査と診断
痛みやしびれの部位、くしゃみや重い物を持ち上げたりすることなどで発症し、安静にしていても疼痛(とうつう)(痛み)がある、突然痛みが出現する、などの症状が診断に有効です。
次に医師による診察で、痛みやしびれがある側の下肢(かし)を持ち上げ、持ち上げられないほど症状が増悪(ぞうあく)(さらに悪化)するかどうかといった、痛み誘発テストを行います。また、筋力低下や感覚障害が下肢にないかチェックします。その後、放射線被曝(ひばく)がないMRIなどの画像検査を実施します。
これらの問診、診察と検査で、総合的に腰椎椎間板ヘルニアの診断を行います。
腰椎椎間板ヘルニアの治療法
腰椎椎間板ヘルニアに対する治療では、ヘルニアには退縮機序(椎間板ヘルニアの塊が小さくなるメカニズム)があり、症状があるヘルニアの60%以上で、発症から3か月程度をめどに、このメカニズムがみられることを念頭に置く必要があります。このため、薬物投与、神経ブロック、理学療法などが、急性期の中心的な治療法となります。
一方で、3〜6か月程度、上記の保存治療を行っても症状が改善しない場合には、手術治療を行うことがあります。また、腰椎椎間板ヘルニアには、左右両側の下肢に痛みやしびれ、筋力や感覚の低下といった神経障害、排尿障害などを発症することがあります。この場合は、早期に手術を行うことが望ましい場合があります。
腰椎椎間板ヘルニアの自然退縮機序について
椎間板ヘルニアには、自然の経過でヘルニア塊が退縮するメカニズムがあります。私たちは、このメカニズムを研究し、椎間板ヘルニアには、多くの炎症性細胞が浸潤し、Matrix metalloprotease(MMP)-3や-7という酵素が産生され、炎症の賦活化(ふかつか)や椎間板ヘルニアの基質分解に作用することを明らかにしてきました。
腰痛や下肢痛を有する腰椎椎間板ヘルニアの約60%以上に自然退縮が認められ、椎間板ヘルニア塊の吸収には3か月程度を要するという報告があります。
[参考文献]
(1)井樋栄二ほか編『標準整形外科学第14版』、医学書院、2020年
(2)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会編『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021改訂第3版』、南江堂、2021年
更新:2024.04.26