遺伝子解析技術を駆使して子どもの成長障害を診断
山梨大学医学部附属病院
小児科、 遺伝子疾患診療センター
山梨県中央市下河東

子どもの成長障害とは?
現代の最新医療でも原因が不明で、治療方針が明らかでない慢性疾患は多く存在し、「指定難病」や「小児慢性特定疾患」として登録されています。特に小児では、「成長障害」から難病が発見されることが多く認められます。このような疾患は、症状や治療が長期に生活の質を低下させるため、適切な診断と治療が求められます。

遺伝子疾患診療センター/小児内分泌外来では、慢性疾患を抱えた患者さんとご家族への支援のため、最新の遺伝子解析技術を駆使して適切な診断を行い、患者さんのニーズに合わせた治療を行うことをめざしています。
遺伝子解析による難病の診断
遺伝医療の進歩により、ヒトゲノムDNAの構造が詳細に解析できるようになってきました。特に生まれつきの身体的な症状や慢性的な症状を抱えていても、通常の検査で診断にいたることが困難な疾患(未診断疾患)を持つ場合、患者さんとそのご家族は生活面や治療面で大変苦労していると思います。
2000年以降、遺伝子解析技術のなかでも、次世代シークエンサーという解析機器により、ヒトゲノムの情報がすべて解明できる「全ゲノム解析」が可能になってきました。日本医療研究開発機構(AMED)の事業により、日本全国の施設が集まって、診断のつかない患者さんの全ゲノム解析を行い、診断と今後の治療や健康管理につなげていく試みがなされています。未診断疾患イニシアチブ(IRUD)という試みで、当院も参加して、多くの患者さんの解析を行っています(図)。これにより、今まで診断のつかなかった遺伝性難病の患者さんの診断が可能となり、全国的には約40%の診断率となっています。

(出典:未診断疾患イニシアチブIRUDホームページ、https://plaza.umin.ac.jp/irud/index.php、閲覧日:2022年4月1日)
遺伝子疾患診療センターでは、患者さんが抱えている症状(表現型)を丁寧に確認するとともに、ゲノム解析によって得られた多数の変異情報の中から、病気の原因にかかわる遺伝子変異(遺伝型)を特定しています。原因のわからない慢性の経過を持つ患者さんに対し、最新の染色体・遺伝子解析を駆使して遺伝子診断を提供し、病態にもとづく治療、適切な健康管理、生涯管理を提案できる医療をめざしています。
「子どもの成長」の最新医療
子どもにおける「成長」とは、「体格的・精神的に成熟し発達するために、継続的に自らの姿を変えること」を意味します。この成長を支えているのは、両親からの遺伝的要素、食事などの栄養、適度な運動、成長ホルモンなどの内分泌的要素であり、そのどれかの問題により成長障害が起きることがあります。子どもにとって成長を続けることは自然なことであり、成長が停止したときは体やこころに対する重大な危機が起きていることも考えなければなりません。
小児内分泌外来では、成長障害で受診したお子さんに対して、ご両親の身長、身体所見、生活習慣、性成熟の過程を確認します。成長曲線や手根骨(しゅこんこつ)のX線画像から評価を行い、血液検査から栄養状態や内臓機能、甲状腺などの活動にかかわるホルモンの数値を測定します。成長ホルモンに関しては、睡眠時にしか分泌されませんので、アルギニンなどの成長ホルモンの分泌を刺激する薬剤を投与して、反応する成長ホルモンの分泌量を確認する「負荷試験」を行います。
栄養状態や生活習慣を改善することで成長障害が改善することも多く、甲状腺や成長ホルモンの分泌が悪いことが明らかになった際には、不足しているホルモンを補う治療を行います。治療がうまくいくと成長率が改善し、自信を持って学校生活を過ごすことができ、活動量が増えるなどの精神的にも良い効果が出ることがあります。
小児の成長障害に対して遺伝的な解析を行うことで、原因が明らかになることがあります。成長研究により、SHOX遺伝子などの、身長に関係する遺伝子の働きが明らかになってきました。当施設の最新の研究では、ミトコンドリア機能が成長に与える影響や、思春期時期を調節する遺伝子の働きによる成長の仕組みが解明されるようになってきました。これからも子どもの成長を科学的に解明し、成長障害で受診したお子さんに最先端のオーダーメイド医療を提供することをめざしています。
更新:2024.04.26