僧帽弁逆流症へのカテーテル治療
山梨大学医学部附属病院
循環器内科
山梨県中央市下河東

僧帽弁逆流症(そうぼうべんぎゃくりゅうしょう)とは?
心臓は4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)から成り立っており、全身の血液が、肺動脈左心房僧帽弁静脈→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→動脈の経路で送り出されます(図1)。

左心房と左心室の間には、僧帽弁という2枚の膜で構成された一方向弁があります。通常であれば左心房から左心室に血液が流れますが、さまざまな原因で僧帽弁の閉まりが悪くなると、左心室から左心房に血液が逆流して、体への血液循環が悪くなってしまいます。この逆流の程度がひどくなると、労作時の息切れ・呼吸困難・むくみといった症状が出現します。
僧帽弁逆流症の診断
心エコー検査が、僧帽弁逆流の有無、程度の判断に有効です。
経胸壁心(けいきょうへきしん)エコー検査
患者さんに横になってもらい、胸やみぞおちから超音波を出すプローブ(検査機器の先端)を当てて、心臓を観察します。
負荷心エコー検査
ルームランナーを歩く、自転車のようにペダルを漕ぐ、心臓の収縮力を高める薬物を点滴する、などの方法で心臓に負荷をかけながら、心エコーを行います。安静時に見つけづらい所見を確認する目的があります。
経食道心(けいしょくどうしん)エコー検査
患者さんに横になってもらい、超音波を出すプローブを、胃カメラのように口から食道に進めます。経胸壁心エコーで観察しにくい部位を、よりきれいに確認することができます。
僧帽弁逆流症への治療
軽度から中等度の僧帽弁逆流症で、症状もない場合には、特に治療せず経過を観察します。重症の僧帽弁逆流症に対しては、薬物治療を行いながら、開胸して(胸を切って)僧帽弁を人工弁に交換する、もしくは弁を形成する手術が、第一選択として実施されます。
薬物治療は、心臓の機能を保護し症状を軽減させる薬を使用します。ただ、弁そのものを直接治療しているわけではないため、薬物のみでは僧帽弁逆流症を改善しきれない患者さんがいます。
また開胸手術は有効性が高い治療ですが、患者さんの年齢や併発している病気の状況によって、危険性(手術による死亡や、手術後に活動性が低下してしまう)が高すぎ、手術適応とならないことがあります。
このような患者さんへの治療法として、経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術が始まりました。現在、国内で一般的に使用できるのはアボット社が開発したシステムで、2018年に保険適用となり、本格的に実施可能となりました(写真1、2)。

(画像提供:アボットメディカルジャパン合同会社)

(画像提供:アボットメディカルジャパン合同会社)
経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術について
この治療は、閉鎖が不十分になっている僧帽弁を、クリップで挟み込むことで逆流を減らします(図2)。

治療手順の概略を、以下の1〜10で示します。
- 全身麻酔を行います。全身麻酔が導入されれば基本的に痛みはなく、眠っている間に実施します。
- 全身麻酔導入後、リアルタイムに心臓の内部を観察しながら治療を進めるため、経食道心エコーを入れます。
- 消毒し、清潔なシートで覆います。
- 足の付け根にある静脈から、直径6mm程度のカテーテル(医療用の細い管)を挿入します。
- 右心房と左心房を隔てる壁に小さな穴をあけ、左心房にガイドワイヤー(細く柔らかい針金のようなもの)を挿入します。
- ガイドワイヤーに沿わせて、直径8mm程度のカテーテルを左心房内に挿入します。
- カテーテルの中を通してクリップを左心房に進めます。
- クリップを僧帽弁逆流の部位まで運び、僧帽弁の弁尖をクリップで挟み込みます。
- 僧帽弁逆流が減少し、狭窄(きょうさく)(想定以上に僧帽弁の開きが悪くなってしまうこと)が生じていないことを確認した後に、クリップを留置します。逆流が残存している場合や狭窄が出現した場合などは、クリップを違う部位で挟みなおしたり、追加のクリップを留置したりすることもあります。
- 足の付け根に入れたカテーテルを抜き、止血処置を行って治療終了となります。
順調に治療できた場合、開胸や人工心肺を必要としないので、体への負担が少なくてすみます。
開胸手術と比較して僧帽弁逆流を減少させる効果は劣るものの、治療に伴う合併症の発生率は少なく、薬物治療をしっかり導入したうえで経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術を適切に行うと、死亡率を下げられると報告されています。
比較的新しい治療であるため、治療後の長期にわたるデータが今のところ乏しく、データを蓄積している段階です。
更新:2024.04.26