総合的平衡機能検査を用いためまいの原因解明-先端めまいセンター

富山大学附属病院

先端めまいセンター

富山県富山市杉谷

めまいの原因を調べる検査

めまいは日常診療において最も頻度(ひんど)の高い症状の1つです。めまいは、回転性めまいと非回転性めまいに分けられます。回転性めまいは、文字通り、自分または周囲が回る回転感覚であり、非回転性めまいはふわふわと浮いているような浮遊感が含まれています。めまいを起こす病気は多岐にわたり、メニエール病、良性発作性頭位めまい症などの末梢性(まっしょうせい)めまいと脳血管障害、脳腫瘍(のうしゅよう)などの中枢性(ちゅうすうせい)めまいがあります。

めまいの原因を調べる検査として、CTやMRIなどの画像検査が広く行われています。しかしながら、これらの検査で異常を示さず、めまいの原因が分からないため、適切な治療を早期に開始することができず、慢性化してしまう場合が少なからず存在します。そのような問題を解決するため、富山大学先端めまいセンターは、2019年11月に設立されました。当センターでは、総合的平衡機能検査(表)を実施するために、めまいの新規検査装置を設置しています。

1. 直立体平衡検査:両脚直立(Romberg 検査、 Mann 検査)、重心動揺検査
2. 動的体平衡検査:足踏み検査
3. 自発性異常眼球運動(電気眼振計、フレンツェル眼鏡)
自発眼振、注視眼振、頭位眼振、頭位変換眼振、頭振り眼振、異常眼球運動
4. 前庭性刺激検査
温度刺激検査(冷温交互試験、エアーカロリック検査)
振子様回転検査、Video Head Impulse Test(vHIT)
前庭誘発筋電位検査(胸鎖乳突筋、外眼筋)
5. 視刺激検査
視運動性眼振検査、視標追跡検査、急速眼運動検査
6. 前庭視覚系の相互作用検査
前庭性眼振の固視抑制、視運動性前庭動眼反射
7. 負荷平衡機能検査
頸部捻転、頸部圧迫、電気性身体動揺検査、瘻孔症状
表 総合的平衡機能検査

内耳(ないじ)にはめまいに関連する感覚器は5種類あります。これまで温度刺激検査では1種類(外側半規管(そとがわはんきかん))の機能しか調べることができませんでした。当センターでは、新しいめまいの検査である前庭誘発筋電位検査や、ビデオヘッドインパルステストなどを駆使して、残り2種類の半規管(前半規管と後半規管)と2種類の耳石器(じせきき)(卵形嚢(のう)と球形嚢)すべての感覚器の機能を評価することで末梢性めまいの原因追及を行っています。さらに、視運動性眼振検査などの視刺激検査を用いることで、中枢性めまいの原因となる小脳や脳幹の機能を調べています。

末梢性めまいの中で最も頻度が高いのは、良性発作性頭位めまい症です。何らかの原因で耳石器から耳石が脱落して半規管の中にたまると、枕に頭をつける、寝返りをうつなどの頭を動かしたときにめまいが生じます。これは、頭の動きにより半規管の中の耳石が移動して、内リンパ液の流れが起こることが原因と考えられています。めまいが生じているときに特徴的な眼球の動き(眼振と呼ばれます)が誘発されるため、当センターでは頭位眼振検査や、頭位変換眼振検査時の眼振をCCDカメラと電気眼振計の両者で評価しています。そして、耳石がたまっている半規管を適切に診断して、耳石を排出するための理学療法を選択しています。

メニエール病の検査・治療

メニエール病の特徴は、①回転性めまいを反復する、②難聴や耳鳴りがめまいに伴って変化することです。外来での薬物治療が有効ではなく、入院を余儀なくされる場合がみられるため、難治性めまい疾患と考えられています。

メニエール病の病態は、内耳の内リンパ水腫(すいしゅ)であり、内リンパ水腫の診断が重要です。当センターでは、独自の振子様回転検査、複数の前庭誘発筋電位検査、純音聴力検査を活用して、内耳のすべての部位(蝸牛(かぎゅう)、半規管および耳石器)での内リンパ水腫を評価しています。さらに、放射線科との連携により、新規の内リンパ水腫の画像診断である内耳造影MRI検査(写真1)を行っています。このような内リンパ水腫に対する高度な診断技術を有する医療施設は国内で少なく、メニエール病に対する正確な診断に役立っています。

写真
写真1 内耳造影MRIによる内リンパ水腫(左メニエール病)

メニエール病では薬物療法が無効な場合には、メニエール病診療ガイドライン2011年版で、中耳加圧治療が外科的治療に移行する前に考慮されるべき治療法として推奨されました。当センターでは、富山大学で開発して2018年に保険収載された中耳加圧装置(写真2)を用いた中耳加圧治療を行っています。日本めまい平衡医学会による中耳加圧装置適正使用指針にしたがって、中耳加圧治療の適応を決定します。めまい発作が反復した場合、メニエール病かどうかを診断、西洋薬と漢方薬の併用などの薬物治療を行い、めまいが治らない場合に中耳加圧治療の適応があるか決定しています。

写真
写真2 中耳加圧装置

当センターでは、日本めまい平衡医学会のめまい相談医の資格を持つ医師が、めまい診療を行っています。県内外からも多くの患者さんが当院を受診されています。

更新:2022.03.14