多発性骨髄腫における治療の進歩 新規抗がん剤治療の出現-多発性骨髄腫

富山大学附属病院

血液内科

富山県富山市杉谷

多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)とは、どのような病気ですか?

血液の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(がん)では悪性リンパ腫、白血病に続いて3番目に患者さんが多い病気です。最新の2018年のがん登録・統計では、全国での罹患(りかん)(発症)数が7700人程度とされ、毎年人口10万人当たりおよそ5人が罹患するとされています。現時点では原因は分かっていませんが、さまざまな感染症から身を守る白血球の一部分である形質細胞が腫瘍化(がん化)し、骨髄の中で増殖することで起こる病気です。若い方が発症することはまれで、65歳以降に発症することが全体の8割程度を占めることが特徴です。

症状を「図1」に示しますが、貧血や腎臓(じんぞう)の働きが弱くなるなど、さまざまな症状をきたし、「図2」のように骨がもろくなることで骨折をしやすくなります。血液の病気にもかかわらず、腰痛など「骨の症状を契機に診断される」ことが半数以上とされます。かつては治療成績が良いとは言えませんでしたが、ここ10年で治療の進歩が最も目覚ましい病気でもあります。残念ながら、現時点でも完治(完全に治癒する)は難しいとされます。

イラスト
図1 これらの症状が出現すると治療の対象になります。最も頻度の多い症状が骨の症状です
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図2 抜き打ち像といい、このように頭の骨にも脆い部分が出ることがあります

多発性骨髄腫にはどのような治療がありますか?

大きく分けて「骨髄腫細胞を減らす治療」と「症状を抑える治療」の2つに分けることができます。この2つを同時に行うことが最も重要です。

まず、「骨髄腫細胞を減らす治療」は主に抗がん剤が担います。抗がん剤の進歩は次の項目でまとめたいと思いますが、65歳以下で元気な方(=自分で歩け、心臓などの臓器に障害のない方です)には自分の血液中の造血幹細胞といって、言わば血液のタネとなる細胞を予め採取し、大量の抗がん剤後に戻す「自家末梢血幹細胞移植(じかまっしょうけつかんさいぼういしょく)」を行うことで、より長生きが期待されます。

「症状を抑える治療」にはさまざまなものがありますが、特に骨が脆(もろ)くなることを防ぐ骨粗(こつそ)しょう症(しょう)に使用する薬剤が重要です。抗がん剤が何であったかにかかわらず、骨粗しょう症に対する薬剤をより積極的に使用すると、長生きに繋がる報告もなされています。また、痛みが強い場合には麻薬などの鎮痛剤や放射線照射、手術を用いた骨の補強などで痛みを和らげることを積極的に行います。「骨が折れてしまった、安静に…」と言いたいところですが、痛みを取って筋力をなるべく落とさないことが重要です。

多発性骨髄腫の抗がん剤治療には、どのようなものがありますか?

抗がん剤には2006年以降使用可能となった「プロテアソーム阻害剤」「免疫調整薬」「モノクローナル抗体医薬品」と大きく分けて働きの異なる3系統の薬剤があります。各々の系統にさらに数種類の薬剤があり、「図3」に示すように現在国内では合わせて9種類の新規薬剤が使用可能です。国内において初発(最初の治療)で使用できるのは、「ボルテゾミブ」「レナリドマイド」「ダラツムマブ」の3種類に限られており、この中から1〜2種類の薬剤とステロイドを組み合わせた治療で、最初の治療を行います。

グラフ
図3 多くの抗がん剤が登場し、治療の選択肢が広がりました

それでは、なぜ1〜2種類と幅があるのでしょうか?近年は、より早期に多くの薬剤で腫瘍の量を減らすことが長生きに繋がることが分かってきていますが、多くの薬剤となると副作用も強くなります。また薬剤ごとに副作用の出方も変わってきます。この病気は65歳以降に発症することが多い病気であり、副作用で逆に症状を悪くしてしまっては本末転倒です。年齢や脆弱性(ぜいじゃくせい)といって身体機能や認知機能などを総合的に判断して、治療を選んでいく必要があります。

その後、薬が効かなくなってきた場合にその他の薬剤を順次組み合わせて投与しますが、これも骨髄腫細胞自体の性質や、前の治療薬、患者さんの状態などいろいろな要素で選択しますので、治療の組み合わせは非常に多くなります。

・なかなか良くならない腰痛では採血検査で貧血がないことを確認してください。

・骨粗しょう症に対する薬剤を使用する前には、副作用の顎骨壊死(がっこつえし)を予防するため歯科を受診してください。

・化学療法に対する支持療法の発達により、ほとんどの化学療法は外来にて行われます。

更新:2024.01.25