トラベルクリニックではどんなことをしていますか?-渡航先での感染症

富山大学附属病院

感染症科

富山県富山市杉谷

海外渡航前にどんなことをするべきですか?

トラベルクリニックでは、より安全に海外に渡航し現地で過ごすための医学的な助言を行っています。具体的には、渡航先で問題となる可能性のある感染症に対しての予防策の案内やワクチンの接種、予防内服薬の処方などを行っています。

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図 虫に刺されないように、十分な対策が必要です。虫よけ薬には、ディートやイカリジンといった成分があります

海外の渡航先、渡航期間、活動内容、滞在先の環境などにより、注意すべき感染症は異なり、また年齢によって接種したことのあるワクチンが異なります。海外渡航を考えている方々それぞれの事情に合わせて、接種するワクチンを考える必要があります。渡航前のワクチンは複数回の接種が必要なものが多くありますので、2か月前にはワクチンのスケジュールを決めなければいけません。当院でのワクチン接種を希望される方は、なるべく早く受診していただけますとスムーズです。なお、当院で取り扱っているワクチン(2019年12月現在)は、国内で承認されたもののみとなっています。黄熱ワクチンや国内未承認の輸入ワクチンを希望される際は、他院の受診をお勧めすることもあります。一度ご相談ください。

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写真1 熱帯熱マラリアの治療薬。日本国内では流通していませんが、当院では常備しています

また、マラリアという感染症をご存知でしょうか。マラリアはアフリカ、東南アジア~南アジア、南米で流行している感染症で、ハマダラカ(蚊)に刺されることで感染します。マラリアには熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリアなど数種類が存在しますが、特に熱帯熱マラリアでは重症化し死亡するケースも多く、迅速な検査と治療が必要になります。まずは蚊に刺されないようにすることが重要ですが、活動内容や滞在環境によっては予防薬の内服をお勧めすることがあります。

そのほか、長期間渡航する際には、自分の健康状態を把握するために健康診断を受けることと、必要な歯科治療を済ませておくことをお勧めします。

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写真2 ヒトスジシマカ。デング熱の原因となる蚊の一種。日本にも生息しています(国立感染症研究所HPより)

海外から帰国した後に熱が出ました。心配です

海外渡航後に発熱した場合、海外特有の感染症を発症している可能性があります。有名なものでは、先ほども少し触れたマラリアが挙げられます。マラリアは海外、特にアフリカではよくみられる一方で、日本ではまだまだ症例数が少なく、十分な検査や治療が難しい施設がほとんどです。マラリアのタイプによって治療法が異なる点も日本での治療が難しい原因となっています。当院では北陸で唯一「熱帯病治療薬研究班」に参加しており、マラリアの検査とそれぞれのタイプに合わせた治療が可能です。心配であれば、一度受診することをお勧めします。

マラリア以外にもデング熱やジカ熱、チクングニア熱などの蚊によって媒介される感染症にも注意が必要です。これらはウイルス感染症で、有効な治療法がまだ開発されていないため対症療法を行います。多くは自然軽快しますが、重症化する例もあり入院が必要な場合もあります。そのほかにも海外渡航に関連した感染症は多くありますが、肺炎や腎盂腎炎(じんうじんえん)、敗血症(はいけつしょう)などの海外渡航とは関係ない重症感染症を発症している可能性もあります。

一方で、旅行の疲れや上気道炎(かぜ)が原因である場合も多くあります。不安に思われる場合は、医療機関を受診して医師の診察を受けましょう。その際には海外渡航後であることを医師に伝えてください。

・安全に海外渡航をするために、事前に十分準備をしましょう。

・海外特有の感染症予防に予防接種などの予防策が大切です。

・海外渡航後に発熱した場合は特殊な感染症を発症している可能性があります。検査や治療が可能ですので、一度ご相談ください。

更新:2024.10.21