肝臓がんの外科治療-安全な肝切除術-肝臓がん

富山大学附属病院

消化器外科

富山県富山市杉谷

肝臓がんとは?

肝臓がんとは肝臓の中にできるがんのことです。肝臓がんには、肝細胞からがんが発生する肝細胞がん(約95%)、肝臓の中の胆管から発生する胆管細胞がん(約4%)があります。

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変をもっている方に発生しやすく、特に国内ではC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが原因の約8割を占めており、そのほかではアルコール性肝炎などが原因となります。最近は、糖尿病や肥満、脂肪肝のあるメタボリックシンドロームの患者さんでの発生が増えていることが注目されています。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、一昔前なら見つかった時点で進行していることが多く、肝臓がんは不治の病といわれてきました。しかし現在では、ウイルス性肝炎や脂肪肝であることが分かっていれば、定期的な通院による検査(超音波検査)を受けることが勧められており、これにより肝臓がんの早期発見が可能になっています。近年はメタボリックシンドロームの患者さんも増えており、知らないうちに脂肪肝になっている患者さんもいます。住民健診や会社の健診で肝機能が悪いと指摘されたら、まずは専門医療機関を受診することが大切です。

どんな治療法があるの?

肝臓がんは、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査に加えて血液腫瘍(けつえきしゅよう)マーカー検査などで診断されます。たくさんの検査を受けるような印象を持たれるかもしれませんが、これは複数ある治療方法の中から患者さんごとに最適な治療方針を決めるために、なるべくたくさんの情報から総合的に判断する必要があるからです。

肝臓がんの治療方針は、現在は「肝癌診療ガイドライン」を参考にして決定することが推奨されています(図1)。その方法は、肝切除術、ラジオ波焼灼術(はしょうしゃくじゅつ)、動脈塞栓療法(どうみゃくそくせんりょうほう)(カテーテル治療)、化学療法(抗がん剤投与)、肝移植術など多岐にわたります。

フローチャート
図1 治療方針決定のフローチャート

肝切除術は安全?

いくつかの治療の中でも、肝切除術はいちばん確実な治療法の1つといわれています。

しかし、肝臓の中には複雑に無数の血管が走行しており、血液のタンクとも呼ばれる臓器で、手術する際には出血の危険性があります。また、肝臓がんを患う患者さんは肝硬変もしくはそれに近い慢性肝炎の方が多く、切除に耐えるための肝臓の機能(予備能)が低下していることがしばしばあり、術後肝不全に至る可能性があります。そこで当科では、CT検査のデータをもとに肝臓の3Dシミュレーション画像を術前に作成しています(写真1)。これによって、肝臓内の血管の複雑な走行と腫瘍との位置関係や、残せる肝臓の容積などを事前に把握することが可能であり、より安全な肝切除術を提供できるよう心がけています。

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写真1 肝3Dシミュレーション画像(赤矢印が腫瘍)

また当科では、2010年に保険適用となった腹腔鏡下肝切除(ふくくうきょうかかんせつじょ)を富山県で最初に行いました。腹腔鏡下肝切除はいわゆる「傷の小さい手術」で、通常の開腹手術に比べて出血量が少なく、入院日数が短いといった、患者さんにやさしい低侵襲(ていしんしゅう)な手術です。肝臓は肋骨(ろっこつ)に囲まれた臓器で、開腹手術だとある程度の大きさの傷が必要であり、場合によっては胸まで傷が及ぶことがあります。腹腔鏡手術では傷が小さいことが患者さんの負担を大きく減らしています(写真2)。一方で、術後の再発率や生存率などの長期間の治療成績は通常の開腹手術と同等です(図2)。現在では全体の肝切除の内、半数近くを腹腔鏡手術で行っています。しかし、すべての肝臓がんが適応となるわけではありませんので、腹腔鏡手術をご希望の患者さんは、まずは当科の専門医に相談してください。腹腔鏡で手術をしても、がんの治療として十分かどうかということを念頭におき、専門医が治療方針を検討します。

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写真2 腹腔鏡下肝切除を受けた患者さんの創部
グラフ
図2 腹腔鏡切除と開腹切除の術後生存率の比較

外科に紹介されたらすぐに手術、というわけではありません。キャンサーボードと呼ばれるカンファレンスを行い、外科、内科、放射線科、病理医が十分に話し合い治療法を考えています。さまざまな診療科がその特性を生かして肝臓がんの治療にあたっており、患者さんにより良い診断・治療を提供しています。

更新:2024.01.25