消化器がんに対する薬物療法ー消化器がん

富山大学附属病院

消化器内科

富山県富山市杉谷

消化器がんの治療方針はどのように決まり、どんな場合に抗がん剤治療が必要となりますか?

消化器とは、食べ物の通り道である、食道、胃、小腸、大腸から肝臓、胆嚢(たんのう)、胆管、膵臓(すいぞう)に至るまで、主に消化にかかわる幅広い臓器を指します。治療方針を決めるには、内視鏡や超音波検査により生検を行って診断を確定し、その後、CT、MRI、PET-CT検査などにより、腫瘍(しゅよう)のステージを決める必要があります。

具体的な治療内容を決めるにあたっては、消化器内科・消化器外科・放射線科の医師によるキャンサーボードと呼ばれる検討会で、一人ひとりの患者さんの治療方針を話し合います。

消化器がんに対する治療の中で、抗がん剤を始めとする薬物療法は、手術と同様に、多くの場面で必要とされます。切除ができない場合や切除後の再発に対してはもちろんですが、がんを根治(こんち)させるために手術前や手術後に行う補助的な治療や、放射線治療との併用療法なども挙げられます。また、使用にあたっては、さまざまな遺伝子検査が必要となることもあります。

大腸がんの薬物療法の具体的な内容は、どのように決定されますか?

大腸がんにおいては、治療を始める前の遺伝子検査が必須です。まず、治療前にKRAS、NRAS、BRAFという3つの遺伝子に異常があるかどうかを調べます(図1)。次に、がんが大腸の左側または右側いずれにあるのか、により適切な治療薬剤が決まります。これは、遺伝子異常やがんの発生する部位によって、薬剤の効果が異なるためです。また、BRAF遺伝子に異常を認める大腸がんは、進行が早く、抗がん剤が効きにくいのですが、最近の臨床試験により、有効性の高い治療法が報告されました。BRAF阻害剤のエンコラフェニブのほか、MEK阻害剤と抗EGFR抗体薬の3剤を併用する治療法であり、今後の保険承認が待たれます。

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図1 大腸がんの薬物療法の方針を決めるプロセス

2018年12月には、がん細胞のDNAに含まれるマイクロサテライトと呼ばれる特定の領域の異常を調べる検査が保険適用となりました。これは大腸がんのみならず、すべての消化器がんで調べることができます(図2)。マイクロサテライト不安定性という異常がある場合、30%以上の方で、がん免疫療法であるPD-1抗体が奏効します。

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図2 消化器がんの薬物療法における遺伝子検査のタイミング

食道がんで切除ができない場合、どんな治療がありますか?

食道は気管や心臓に接していますので、隣接する臓器に食道がんが進展している場合、手術が不可能と判断されることがあります。

食道がんで切除が難しいと判断された場合でも、治癒を期待できる治療法があります。その1つは、食道がんに対する化学放射線療法です。しかし、化学療法と放射線を同時に行っても、食道がんが消失するのは15%程度の患者さんです。

最近では、腎臓(じんぞう)や心臓の機能が良い、元気な方に対して、5-FU、シスプラチン、ドセタキセルの3剤を組み合わせた強力な化学療法を行っています。これにより、60%程度の患者さんで食道がんが縮小することが明らかとなってきました(図3)。十分に縮小した場合には、再び治癒を目指すための手術を受けることが可能です。また、状況に応じて、手術の代わりに化学放射線療法を行うことで、治癒に至ることもあります(図3)。

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図3 食道がんの化学療法、および化学放射線療法後の治療経過の一例

参考文献:「大腸がん治療ガイドライン医師用2019 年度版」大腸癌研究会 http://www.jsccr.jp/guideline/2019/particular.html

1.消化器がんの治療方針を決めるにあたっては、さまざまな検査により正確にステージを診断する必要があります。

2.消化器がんにおいて、抗がん剤を始めとする薬物療法は、手術や放射線治療との組み合わされる場合も含めて、大切な治療法の一つです。

3.さまざまな遺伝子検査により、効果や副作用の出やすさを予測しながら、適切な薬剤を決めています。

更新:2024.01.26