口の中(口腔)のがんを切らずに治す、動脈注入放射線化学療法

愛知医科大学病院

歯科口腔外科

愛知県長久手市岩作雁又

口腔がんの半分以上は舌がん

頭頸部悪性腫瘍(とうけいぶあくせいしゅよう)全国登録(2014年)では、口腔(こうくう)がんは頭頸部悪性腫瘍全体の約3割を占め、舌がんはその半分以上となっており、発生頻度(ひんど)の高い疾患です。『頭頸部癌診療ガイドライン〈2013年〉』では、手術療法が第1選択となっています(写真1)。しかし、術後に摂食(食べること)・嚥下(えんげ)(飲み込むこと)・発音(話す)機能の低下を引き起こすことがあります。口腔は、このような機能や顔貌(かおかたち)を司(つかさど)る大事な器官であるため、患者さんにとって手術療法はとても怖いと感じられることは確かです。

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写真1 舌がんの切除手術前後

当科では、手術療法を選択しない治療方法、すなわち「切らない口腔がん治療」として、動脈注入放射線化学療法を行っています。

動脈注入放射線化学療法とは

この治療は、外頸動脈(がいけいどうみゃく)の終枝(しゅうし)の浅側頭(せんそくとう)動脈(耳の後ろにある動脈)から、舌動脈、顔面動脈や顎(がく)動脈などの栄養動脈(がん組織に栄養を送り込んでいる動脈)にカテーテル(管(くだ))を挿入し、そこから抗がん剤を投与し、同時に強度変調放射線照射を行う方法です(写真2)。

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写真2 3DCT 栄養動脈

動脈注入放射線化学療法による治療は、手術療法と違い大事な口腔組織を切り取ったりしませんので、機能の低下を最小限に抑えることが可能です。基本的に入院は必要ですが、治療のない週末は外泊ができ、自宅で入浴もできます。

この治療法は『頭頸部癌診療ガイドイン』の推奨グレードでは、「診療で利用・実践することを考慮してよい」とされており、手術療法と比べ遜色(そんしょく)ない治療効果が得られています(写真3~6)。

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写真3 舌がん治療前
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写真4 下顎歯肉がん治療前後
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写真5 右側舌がん治療前後
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【左側舌がん リンパ節転移例(写真6)】

動脈注入放射線化学療法の副作用

切除手術をしないことで、舌の運動や飲み込み、放射線による口の中の渇き、舌の粘膜が平らになり、味覚の低下は持続することがあります。

一時的には、頭の毛が薄くなりますが、半年ほどで元に戻ります。

更新:2024.10.04