前立腺肥大症に対するPVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)について教えてください

愛知医科大学病院

泌尿器科

愛知県長久手市岩作雁又

前立腺肥大症になると手術が必要ですか?

前立腺肥大症は、年齢とともに徐々に肥大した前立腺によって尿道が狭く圧迫されることで、排尿困難感、排尿に時間がかかる、頻尿(ひんにょう)などの症状が現れます。場合によっては自力では排尿ができずに尿道から膀胱(ぼうこう)へ管(くだ)(カテーテル)を挿入する必要が出てくる場合もあります。

前立腺肥大による排尿障害に対しては、一般的に薬物療法が第1選択とされています。薬によって肥大した前立腺や、尿道の筋肉を緩めて尿が出やすくすることにより、自覚症状の改善を期待するものです。多くの方は薬物療法によって症状は改善しますが、十分に改善しない場合、一度は改善したものの徐々に悪化する場合、薬の長期服用を避けたい場合や自力で排尿ができないなど症状が重症な場合には、肥大した部分を切除する手術が行われます。

PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)とは?

前立腺肥大によって圧排(あっぱい)(圧迫)された尿道を広げるために、従来、低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)手術として、水(灌流液(かんりゅうえき))で視野を確保しながら尿道から内視鏡を入れ、前立腺を高周波メスで切除する手術(経尿道的前立腺切除術(けいにょうどうてきぜんりつせんせつじょじゅつ):TURP)が広く行われてきました。この手術は高い治療効果があるものの、手術中の出血量が比較的多いこと、術後に尿道カテーテルを留置する期間が長いこと、また灌流液の吸収により水中毒(低ナトリウム血症)を起こすリスクがあるなどの課題がありました。また、出血しやすい手術の特性から、脳血管や循環器の疾患で抗凝固薬を服用している高齢者には手術を行うことが難しいとされてきました。

前立腺肥大症に対する従来法の課題に対応した最新の治療法が、当院で2016年10月から導入した光選択的前立腺レーザー蒸散術(PVP)です。患者さんの体に、よりやさしい手術といえます(表)。

  TURP
(従来法)
PVP
(本手術法)
治療成績 ほぼ同等
術後の痛み 比較的多い 少ない
出血 比較的多い 少ない
低 Na 血症 時々あり ない
逆行性射精 多い 少ない
カテーテル留置期間 3~5日間 1~3日間
入院 7日間程度 4 ~ 5 日程度
保険適用 あり
表 従来法とPVPの比較:治療成績はほぼ同等だが、PVPは出血が少なく入院期間も短いです

PVPに使用する緑色レーザー光は、水にはほとんど吸収されない一方、血液中の酸化ヘモグロビンに選択的に吸収され、強い熱エネルギーを生じさせる特性があります。生理食塩水(灌流液)で視野を確保しながら、内視鏡を使って血流の豊富な前立腺組織にこのレーザー光を照射すると、組織は瞬時に加熱・蒸散され、同時に蒸散部の表面に1~2mm程度の薄い凝固層ができます。

PVPでは、緑色レーザー光による肥大組織の強大な蒸散効果と、確実な止血凝固効果が発揮されるため、前立腺肥大症による下部尿路閉塞(へいそく)が効率的にかつ安全に解除されます(写真)。手術時間は1~2時間です。

写真
写真 実際のPVP:内視鏡画像をモニターで見ながら確認し、緑色レーザー光を前立腺組織に照射して、加熱・蒸散させています

PVPと従来法との違いは何ですか?

手術結果は、従来法(経尿道的前立腺切除術:TURP)と比較しても劣らず、レーザーで前立腺組織を瞬時に蒸散させることで圧倒的に出血が少なく、輸血のリスクは少ないこと、組織に穴があくこと(穿孔(せんこう)がないこと、TUR反応(希釈性低ナトリウム血症)が起きないこと、および尿道カテーテル(管)を手術後数日以内に抜いて退院できる点が優れています。

心臓や肺、脳血管に病気を抱えた患者さんも手術ができる場合があり、股関節(こかんせつ)手術後で十分な手術姿勢がとれない患者さんも治療できる場合があります。

PVPを行う病院は、まだ少ない

PVPは2011年7月に保険診療となりました。採用施設は徐々に増えつつありますが、設備投資コストが高いため、まだ少ないのが現状です。愛知県内の病院でもPVPを行っている病院は数施設しかありません。低侵襲な前立腺手術であるPVPに興味がありましたら、当科にお気軽にお問い合わせください。

更新:2024.10.08

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