処方された薬を飲んでいるのに胸やけが治りません

愛知医科大学病院

消化管内科

愛知県長久手市岩作雁又

PPI抵抗性GERDとは何?

胃では食べた物を分解するために胃酸が分泌され、この胃酸の逆流によって引き起こされると考えられているのが胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)(GERD:gastroesophageal reflux disease)です。胃の内容物が食道に逆流することによって、食道の粘膜が傷ついたり、胸やけや苦しい物が上がってきたりするなどのわずらわしい症状があります。GERDの治療には、胃酸の分泌を強力に抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬〈PPI:proton pump inhibitor〉)が主に使われます。しかし、薬をしっかりと飲んでいるのにもかかわらず、粘膜の傷や症状が治癒(ちゆ)しない場合にPPI抵抗性GERDと診断されます。

どうして薬が効かないの?

胃酸の分泌を抑制する薬が効かない原因としては、次のようなことが考えられます。

①薬を飲んでいても胃酸が十分に抑えられていない

胃酸の分泌を抑える薬に限定したことではないですが、薬の効果は吸収や代謝に個人差があるため、すべての人が同じ量の薬を内服しても、同じように効果が得られるとは限りません。

②胃酸以外のものが逆流して症状を感じている

胃の奥には十二指腸があります。十二指腸には、胃で消化された食べ物を消化・吸収するために胆汁(たんじゅう)や膵液(すいえき)を含む腸液があるため、それらの物が胃や食道まで逆流することで、症状が引き起こされている可能性があります。

③食道の運動に問題がある

食道は食べ物の通り道で、ここでは消化や吸収は行われません。食べ物は口から入ると、食道の蠕動(ぜんどう)と呼ばれる動きによって胃へと運ばれます。この蠕動に異常があると、食べ物がスムーズに胃内へ通過しなかったり、逆流した胃酸などが食道内に停滞したりしてしまいます。このような運動異常が症状の原因となっている可能性があります。

④その他

①~③のいずれでもない場合は、心理的な要因の可能性も考えられます。

胃カメラの検査を受けただけで原因が分かるの?

胃カメラの検査を受けることで、すべてが分かるわけではありません。そのほかの原因を調べるために、当科で行っている精密な検査には、次のようなものがあります。

①食道造影検査

X線で観察しながらバリウムを飲むことで、バリウムが食道内をスムーズに通過するのか、狭窄(きょうさく)(狭くなる)や拡張(広がりすぎる)、異常な動きがないかなどを調べます。

②高解像度食道内圧測定検査(HRM:high resolutionmanometry、写真1)

写真
写真1 食道の運動機能をモニター上の波形で評価します

センサーのついた細いカテーテルを、鼻から食道・胃内に留置した状態で少量の水分を数回とります。その際に測定される波形により食道の運動を調べます。

③24時間胃食道内インピーダンスpHモニタリング検査(写真2)

写真
写真2 症状が出たときにはボタンを押していただき、症状出現と逆流の関連を評価します

HRMと同様に、鼻からカテーテルを食道・胃内に留置し、24時間生活します。内服している薬が胃酸を十分に抑えられているのか、また逆流物がどのようなものか(酸性なのかアルカリ性なのか、液体なのか気体なのか)を調べるとともに、逆流と症状の出現に関連があるかどうかを調べます。

実際にPPI抵抗性GERDの診断で当院に紹介となり、前記の詳しい検査を受けたことで、食道の運動異常が見つかった患者さんもいます(写真3)。

写真
写真3 内視鏡、食道造影、HRMで観察された異常所見

いろいろな検査を受けて調べると、症状は良くなるの?

検査を受けて、症状が続いている原因が分かると、より有効であると予測される薬を選択することができます。また、それぞれの状況に応じた適切な治療法の選択によって、患者さんのQOL(生活の質)の改善が可能となります。

食道機能検査による個別化治療

胃食道逆流症(GERD)の治療は、強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIが第1選択とされていますが、その治療が無効な症例も少なくありません。

当科では、PPIを内服しても食道の粘膜傷害や、逆流症状が十分に改善しないPPI抵抗性GERDの患者さんに対し、東海地方では初めて整備された高解像度内圧検査装置、インピーダンス測定装置を用いて詳細な食道機能検査を行っています。より詳細な病態の解析を行うことで、患者さんのQOL改善に向けた個別化治療を行うことを目指しています。

更新:2022.03.14