手術支援ロボットを用いた最新の婦人科手術

浜松医科大学医学部附属病院

産科婦人科

静岡県浜松市東区半田山

婦人科ロボット支援手術の適応疾患とは?

現在、国内での保険診療としてのロボット支援手術は、次の3つです。

  • 良性疾患に対する子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ)
    子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)、子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)、子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)といった月経(生理)にかかわる疾患が代表的です。また、子宮頸部異形成子宮内膜増殖症(しきゅうけいぶいけいせいやしきゅうないまくぞうしょくしょう)といった疾患も適応となります。
  • 骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)に対する仙骨腟固定術(せんこつちつこていじゅつ)
    骨盤臓器脱とは、子宮、膀胱(ぼうこう)、直腸(ちょくちょう)が、腟から体外へ脱出してしまう病気です。
  • 早期子宮体(しきゅうたい)がんに対する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)手術
    子宮体がんの中でも、進行期(ステージ)がⅠA期(がんが子宮体部に限局し、かつ筋層浸潤が筋層の1/2未満)と診断された方が対象となります。

子宮筋腫に対するロボット支援手術

子宮筋腫とは、子宮を構成する筋肉組織由来の良性腫瘍です(図1)。35歳以上の女性では1/3程度、40歳以上の女性では半数程度が子宮筋腫を持つといわれています。正常な子宮の大きさは、鶏の卵ほどの大きさですが、子宮筋腫が大きくなると1~2㎏以上になることもあります。

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図1 子宮筋腫

症状は、大きさや発生する位置などによって、無症状の方もいれば、月経量の増加やひどい月経痛を引き起こし、また不妊症の原因となることもあります。症状が強い患者さんで、今後の妊娠の希望がない方は、手術による子宮全摘が治療の選択肢となります。

従来は、大きくお腹(なか)を切開する開腹手術(かいふくしゅじゅつ)で子宮を摘出していましたが、その後、腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)の登場により、創(きず)が小さく体への負担が少ない低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)が増加しました。

ロボット支援手術ではさらに、腹腔鏡にはないロボットアームの多関節機能や、高精細な3D視野と手ぶれ補正による確実な組織切開により、低侵襲かつ繊細で、出血量が少ない手術が可能となり、当院でもロボット支援手術を積極的に取り入れています。

実際の手術では、お臍(へそ)の高さで1㎝程度の5つの創からカメラとロボットアームを挿入し(図2)、術者はロボットの操縦席で機械を操るようにして手術を行います(写真)。お腹の大きな切開がないため、術後の回復が早く、翌日から歩行や食事を開始でき、早期の社会復帰が可能です。

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図2 ロボット支援手術での創部のイメージ図
1cm程度で5か所の創で手術を行います
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写真 術者は操縦席でロボットを操作する

子宮体がんに対するロボット支援手術

子宮体がんは、子宮内膜から発生するがんであり、40歳代後半から増加し、50~60歳前後の方に発症しやすく、現在婦人科がんで最多の疾患です(図3)。多くの場合、不正出血や閉経後の性器出血から診断されます。

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図3 子宮体がん

標準治療は手術療法であり、子宮全摘術と付属器(卵巣、卵管)摘出術に加えて、症例に応じて骨盤(こつばん)リンパ節郭清術(せつかくせいじゅつ)(*1)を行います。ロボット支援手術は、早期子宮体がん(類内膜(るいないまく)がん、グレード〈悪性度〉1または2、術前進行期ⅠA期)の症例が対象となります。

子宮全摘出は、子宮を削ることなく、確実に子宮を摘出する術式が推奨されており、患者さんの安全とがんを取りきる根治(*2)性を両立させた手術が必要です。

また、骨盤リンパ節郭清術では、従来の腹腔鏡手術と比較して、ロボットの多関節機能により、開腹手術に近い手術操作が可能です。従来の開腹手術では、恥骨(ちこつ)上からお臍の上まで、20㎝以上の切開を必要としましたが、ロボット支援手術では、良性疾患と同じく1㎝前後の創5つで手術が行えます。

子宮体がんの患者さんは、疾患の特性から肥満症例が多くなりますが、ロボット支援手術では高度肥満症例でも質の高い手術をすることが可能です。

*1 リンパ節郭清/手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること
*2 根治/完全に治すこと。治癒

骨盤臓器脱に対するロボット支援手術

子宮の前側には膀胱があり、後ろ側には直腸があります。出産をすると子宮を支える靭帯(じんたい)が損傷を受けます。損傷の程度が大きい場合は、加齢に伴って筋肉や組織の萎縮が起こると、骨盤内の臓器である子宮、膀胱、直腸が下がり、腟から体外へ飛び出してきてしまうことがあります。これを骨盤臓器脱と呼びます。

症状が軽ければ、骨盤底筋体操などを行うと増悪(もともと悪かった状態からもっと悪くなること)を防ぐことができますが、症状が強くなって大きく脱出してしまう場合や、排尿・排便障害が出るような場合は、手術療法も考慮されます。

当院では、メッシュ(網目状の布)を用いて、脱出する臓器を受け止め引き上げる、仙骨腟固定術という術式を行っています。

ロボット支援手術では、カメラの安定性や多関節のロボットアームによって、骨盤深部での正確な膀胱・直腸剥離とメッシュの縫合(ほうごう)が可能です。

更新:2023.10.26