フレイルに対するメンタルヘルスからのアプローチ
浜松医科大学医学部附属病院
精神科神経科
静岡県浜松市東区半田山
高齢期に直面する課題とフレイル
高齢になると、身体機能の衰えのみならず、社会的な役割の喪失、配偶者や友人・知人の死、それに伴う情緒的なサポートの喪失や、社会的な孤立感、疾病(しっぺい)など、人生のさまざまな課題に直面します。
こうした多様なストレスから、活動性が低下し、体力や身体機能の低下がさらに進み、意欲の減退などが生じやすくなります。こうした状態を防いだり脱したりするために、メンタルヘルスの維持に注意して、改善を試みることが重要です。
医療の中では、高齢の患者さんが、入院生活を余儀なくされる場合などに、フレイルの状態になる可能性が高まります。そこで当院の入院患者さんに対するメンタルヘルスの取り組みについて紹介します。
メンタルヘルスへの取り組み
高齢の患者さんで入院が長期化した場合、気分の落ち込み、不安、不眠などの精神症状が現れることがあります。依頼があって心理士が訪問すると、入院生活や疾患の影響で、「手足がうまく動かせない」など、これまで保たれていた運動機能の低下に伴う不安や落ち込みがあったり、「良くなると思って手術を受けたのに、余計に痛くなった」「家族に会えないのが辛い」など、期待と現実のギャップや孤独感などから、治療への動機づけが低下してしまっていることもあります。
また、がんを始めとした重大な病気を告知されたあとは、誰もがそのショックからしばらく気分が落ち込み、活動性が低下しがちです。高齢の方の場合、この期間が長引くことで、筋力や認知機能が低下してしまう可能性があります。
不安や気分の落ち込みは、活動意欲を低下させ、活動性が低下すると、さらに気分の落ち込みにはまり込むという悪循環に陥りやすくなります。そのため心理士は、これらの辛さを本人の立場になって共感しながら聴きつつ、この悪循環から抜け出すための支援をします(写真)。
具体的には、リハビリなどで患者さんが努力していることや、現状取り組めていること、小さな良い変化などに着目し、本人を力づけるようにかかわります。また、家族とのかかわり、病気になる前の生活の様子、患者さんの生きてきた人生、興味・関心を持っていることなどを話題にし、現状の辛さ以外にも、その方が元々持っている力に目を向けられるようなかかわりを心がけています。
さらに、医療スタッフ、家族、友人との関係など、本人が持っているさまざまな対人関係を話題にし、周囲の人たちとつながっている感覚を活性化させていきます。そうすることで、「自分は1人ではない」という感覚や「今できることをスタッフとともに取り組んでいこう」という、治療への動機づけが保たれ、精神的安定につながります。
その結果、「できないことが増えていく」という失われる機能に焦点が向いた状態から、「どのように生活していこうか」など、先の生活に焦点が向くようになり、活動性が向上し、フレイルの状態を予防できると考えます。
加えて、必要があれば精神科医と連携し、精神科医による診察や薬物療法の提案をすることもあります。
意義ある高齢期のために
高齢期は、これまでの生き方をまとめていく重要な時期です。フレイルは、介護が必要な状態ではなく、適切な対処によって、以前の状態に改善する可能性がある状態です(図)。長寿化が進む中で、高齢期をどのように生きるのかは、これまで以上に重要な課題となっています。
私たちは、患者さんが病の中にあっても、意義ある高齢期を過ごせるよう、メンタルヘルスの維持・向上のために工夫を重ねていきたいと考えています。
リエゾン精神看護専門看護師としてのかかわり(メンタルヘルス)
病棟や外来、診療科にとらわれず、呼ばれたらどこにでも向かい、活動をしています。
精神疾患の有無にかかわらず、治療によって精神的な不調を抱えた患者さんや家族が、安心して希望する治療を継続できるよう、困っていることについてゆっくりお話を聞きます。精神科の受診をためらう方でも、看護師ならではの立場を生かして、専門的な知識をベースに対話し、患者さん自身が持っている力、強みに気づいていけるよう支援しています。
ケアの対象に患者さんや家族がいるのはもちろん、職員のメンタルヘルスサポートまで、幅広く対応しています。患者さんと関係する医療者の間に立って、双方を支援することで、お互いが満足できるように調整を行い、その結果、質の高い医療にもつながるよう活動しています。
更新:2023.12.11