患者さんの負担が少ない放射線治療をめざして
浜松医科大学医学部附属病院
放射線治療科
静岡県浜松市東区半田山
放射線治療とは?
放射線治療とは、手術、薬物療法(抗がん剤治療)とともに、がん治療の三本柱の1つです。放射線治療には、以下の3つがあります。
- 体の外から放射線を当てる外照射(がいしょうしゃ)
- 体の中に治療用の器具を挿入し、その中に放射線が出る線源を入れて、体の中から照射する小線源治療(しょうせんげんちりょう)
- 放射性物質を飲み薬や注射で投与する核医学治療(かくいがくちりょう)
放射線治療は体への負担が比較的少なく、高齢や合併症で手術が難しい患者さんへの治療も可能です。
新しく導入された外照射装置
2022年4月より、新しい外照射装置(リニアック)が稼働しており(写真1)、今まで以上に高精度の放射線治療を実施できるようになりました。
定位放射線治療(ていいほうしゃせんちりょう)は、いわゆるピンポイント照射のことで、脳転移(のうてんい)、肺腫瘍(はいしゅよう)、肝がんなどの小さい病巣(びょうそう)に対して、多方向から正確に放射線を集中させ、副作用を抑えて治療することができます(図)。
強度変調放射線治療(きょうどへんちょうほうりしゃせんちょう)は、照射口に取り付けられた絞りをコンピュータ制御で動かすことにより、病巣の形状に合わせて放射線を当てること(照射といいます)ができ、正常臓器の副作用を抑えることができます。脳腫瘍、頭頸部(とうけいぶ)がん、前立腺(ぜんりつせん)がん、子宮(しきゅう)がんなどに威力を発揮します。
また、病巣への正確な照射には、画像誘導放射線治療(がぞうゆうどうほうしゃせんちりょう)(画像で病巣部を確認し、位置を補正しながら照射する治療)が必須となります。通常はX線装置により2次元画像や3次元画像を取得し、位置のずれを補正しますが、当院のリニアックには、目には見えない光学的なパターンを照射して体表面の位置情報を取得し、位置補正を行う、体表面誘導放射線治療が可能な装置も付属しています。これにより、治療前や治療中の位置情報、体動(体の動き)や呼吸での胸郭(きょうかく)の動きなどを正確に観察することができます。
また、脳転移に対する定位放射線治療専用の最新のシステムも導入され、複数の転移を同時に、かつ短時間で治療することができるようになりました。
さらに、治療計画用CT(治療時の放射線の当て方や線量を決めるためのCT撮影)では、病変部が呼吸によって動いてしまう影響を加味した4次元CT画像による治療計画が可能で、肺がん、肝がんなどに威力を発揮します。
バージョンアップした小線源治療
小線源治療は、専用の器具や装置を用いて、放射線が出る線源を腫瘍の近くに停留させることにより、腸ちょう管かんなどの正常な臓器の影響を減らしつつ、病巣に対して高い治療効果をあげることができます。子宮や膣(ちつ)の腫瘍に対する治療として用いられ、腔内照射(くうないしょうしゃ)とも呼ばれます。
現在、静岡県西部では当院のみでしか施行できないため、院内の産科婦人科だけでなく、地域の病院からも患者さんが紹介で来院しています。
また、2022年より腔内照射用の装置にCT装置を同室設置した新しい治療装置が稼働しています(同じ部屋にCTがあるので患者さんの移動がなく、より正確で負担の少ない治療が可能になります。写真2)。CT装置を活用することで、正確な線源配置を3次元的に把握できます(画像誘導小線源療法)。そして、病巣や腸管などへの放射線の量を正確に計算することで、今まで以上に、患者さんへの負担が少なく、短い時間で、より安全な治療を実現できるようになりました。
今後の発展が期待される核医学治療
核医学治療では、特定の病巣に取り込まれる放射性物質を患者さんに投与して、放射性物質から放出される放射線によって治療します。患者さん自身からも一時的に放射線が出るため、投与量によっては特殊病室への入院が必要になります。現在、静岡県には特殊病室は3部屋しかなく、そのうち2部屋が当院にあります。そのため県内外から、広く患者さんを受け入れています。
これまで、甲状腺(こうじょうせん)がんの治療の1つである放射性ヨウ素内用療法や、骨転移をしている前立腺がんに対するラジウム223、悪性リンパ腫に対するイットリウム90などの放射性医薬品を用いた治療を行ってきました。
2021年には新たに、膵臓(すいぞう)や消化管などに発生する神経内分泌腫瘍に対するルテチウム117と、褐色細胞腫やパラガングリオーマに対するヨウ素131-メタヨードベンジルグアニジンの2つの薬が日本でも使えるようになり、いち早く当院にも導入されました。
このほかにも海外ではさまざまな治療が行われており、核医学治療は大きく発展しています。
更新:2023.10.26