藤田医科大学病院のロボット支援手術-サージカルトレーニングセンター

藤田医科大学病院

泌尿器科 総合消化器外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

質の高い低侵襲治療――ロボット支援手術

手術支援ロボット「ダビンチ」は、現在世界で最も普及しているロボット手術器械です。藤田医科大学病院では以前より、患者さんが術後早期に社会復帰できる医療を目指し、傷をできる限り小さくする低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)に積極的に取り組んできました(図)。腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)もその1つですが、腹腔鏡手術には「操作が難しい」という弱点がありました。腹腔鏡手術の進化形であるダビンチによるロボット支援手術は「スケーリング機能(術者の手と鉗子(かんし)の動きの縮小倍率を調整する機能)」「手ブレ防止機能」「3次元視野」などによって、この弱点を克服し精度の高い手術を低侵襲な状況下でも可能にしました。

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図:傷口が小さく体にやさしい手術(開腹とロボット支援手術の相違)

ダビンチを利用する手術では、執刀医は「サージョンコンソール」という、患者さんの体からは離れたコックピットで画面を見ながら操作を行い、数本のアームを持つ「ペイシェントカート」がその指示に従って実際の執刀をします(写真1、2)

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写真1:ダビンチXiサージカルシステムコンソール(右)とペイシェントカート(左)©2020 Intuitive Surgical, Inc.
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写真2:ロボット支援手術の手術室 ペイシェントカートは中央、手術者コンソールは画面左奥

外科系すべての診療科でロボット支援手術を実施

藤田医科大学のロボット支援手術に対する取り組みは、2008年ダビンチ・サージカルシステムの導入と総合消化器外科(宇山教授)による胃がん手術に始まります。その後、2012年には前立腺がん手術に対するロボット支援手術が初めて保険適用を認められ、症例数が増加しました。

2015年には最新機種であるダビンチXiを国内で初めて導入し、ロボット支援手術の先駆けとして国内トップクラスの手術数を堅持しています。2018年には新たに12術式に保険適用が追加され、ロボット支援手術の幅は大きく広がりました。これらの保険認可の申請にも、先進医療の施行も含め当院はその主導的役割を果たしました。また、トレーニングセンターなどの教育施設を含め、ロボット支援手術を主体とした低侵襲治療をグローバルに展開していく方向で継続的に取り組んでいます。

現在、当院ではダビンチXiが3台常時稼働(国内最多)し、外科系すべての診療科でロボット支援手術を実施し、さまざまな手術に対応できる環境にあります。

2009年の臨床導入以来、2019年末までに行われたロボット支援手術の総数は2795例(泌尿器科1566例、総合消化器外科967例、婦人科142例、呼吸器外科112例、耳鼻科4例、心臓外科4例)であり、2019年には総計で600例/年を施行し、いずれも国内トップクラスの実績です。

さまざまな術式に対応し、今後も拡大へ

2020年には保健適用が再度拡大され、新規に7つの術式も健康保険での治療が可能となっています。当院ではこれら術式にもすでに対応しているものが多く、スムーズに導入できる環境にあります。

現在までに施行されているロボット支援手術の多くは、がん(悪性腫瘍(あくせいしゅよう))に対する手術です。ロボット支援手術ではがんの治療成績を損なわず、取り去る臓器の機能をなるべく温存します。そして、術後も早く社会復帰し術前と変わらない生活に1日も早く戻れるよう、質の高い手術が施行できます。これらの背景からも、将来的にはロボットがなければ、いかなる手術治療も立ち往かなくなることは必定であると考えられます。

従来、多くのダビンチ手術が悪性腫瘍に対して施行されていましたが、今後は小児や機能改善を目的とした低侵襲手術への応用が期待されています。これらの手術の多くは症例数も少なく、まとまったデータを基に手術のメリットを主張し難いため、国から健康保険の適用を取得するのが難しい状況にあります。そのような観点からも、大学病院であればこそ保険未収載の新規手術にも先進的に挑戦し、今後もこの領域のオピニオンリーダー足るべく、新たな術式の拡大へも挑戦したいと考えています。

藤田医科大学の先端外科治療への取り組み

藤田医科大学は、腹腔鏡下手術やロボット支援下内視鏡手術など体に負担の少ない反面、高い技術が必要な手術方法を時代に先駆けて取り入れてきました。新たな先端外科治療を行うには、安全性を高い水準まで上げることが重要であり、藤田医科大学病院は広く先端外科治療の安全な普及や開発に力を注いできました。

藤田医科大学サージカルトレーニングセンターでは新しく開発された手術方法・手術機器を診療の現場に取り入れる前に外科医を訓練したり、次世代を担う若手や全国の他の施設の外科医に伝え(教育)たり、他施設や企業と協力して開発(研究)したりするための場として、国内外の外科医がトレーニングに訪れています。サージカルトレーニングセンターは、ダビンチ低侵襲手術トレーニング施設、カダバーサージカルトレーニング施設、メディカロイドトレーニング施設の3つの施設で構成されます。

ダビンチ低侵襲手術トレーニング施設

2012年4月に開設した国内初のIntuitiveSurgical社公認ロボット支援下内視鏡手術専用アニマルトレーニング施設です。現在でも国内では、同公認施設は当施設を含めて2施設しかありません。本学動物実験委員会承認のもと、獣医師が常駐し、十分に動物愛護の観点に配慮のうえ、da VinciSurgical Systemの操縦資格(Certifi cate)取得のためのベーシックトレーニングを中心に行っています。当施設でCertifi cateを取得した1000人を越えるロボット外科医が全国で活躍しています。

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写真3:ダビンチ低侵襲手術トレーニング施設

カダバーサージカルトレーニング施設

2019年2月に開設したロボット支援下内視鏡手術手技研修も行える、国内で唯一のご献体を用いた手術手技研修(Cadaver Surgical Training、CST)施設です。近年、手術手技は技術革新と融合し、高度先端化が急速に進んでいます。一方、腹腔鏡下手術による医療事故が社会問題となり、先端外科治療の安全な導入と普及が強く求められています。しかし、先進的で高度な技術を要する手術手技は診療の現場で経験する機会が少なく、複雑な部位のトレーニングは模型やアニマルを用いて行うことでは難しい場合もあります。

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写真4:カダバーサージカルトレーニング施設

当施設では、「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」(日本外科学会、日本解剖学会)を遵守し、ご献体を用いて基本的な医療技術から難しい手術手技を含む医師の訓練や教育、新しい手術手技・医療機器の研究開発を行っています。

メディカロイドトレーニング施設

2020年4月に本学とメディカロイド社が共同で開設した最新施設です。メディカロイド社で開発中の国産初の実用型内視鏡下手術用ロボット(RAS)の基本操作訓練や、本体、付属機器、周辺機器、訓練用プログラム等の開発研究を行っています。メディカロイド社は、産業用ロボットのリーディングカンパニーである川崎重工業(株)と、検査・診断の技術を保有し、医療分野に幅広いネットワークを持つシスメックス(株)の共同出資により2013年に設立され、2015年よりRASの本格開発を開始しました。本学で培ってきたロボット支援下内視鏡手術の技術・経験とメディカロイド社の高度な技術力・医療分野の幅広いネットワークを融合することで、既存の内視鏡下手術用ロボットを凌駕する性能を目指してRASの開発に鋭意取り組んでいます。

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写真5:メディカロイドトレーニング施設

更新:2024.10.08