1人でも多くの重症外傷患者の救命を目指す

藤田医科大学病院

災害・外傷外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

生命の危険を有する重症外傷患者に対して

救命救急センターは、生命に危険がある重症な患者さんを救命するために受け入れを行う施設です。特に重症外傷患者に関して、医師がいかに迅速で的確な診断・治療を行っていくかということが、救命の要(かなめ)となります。

また、対応する病態も多岐にわたり、各診療科にまたがった対応が必要なことも多くあります。ただ近年、外科の臓器別診療による専門性の細分化により、重症多発外傷などの患者さんへの初期対応・手術・集中治療を迅速かつ適切に対応できる施設は多くありません。災害・外傷外科では多発骨折や臓器損傷など、単独の科で診断・治療ができない重症外傷患者の初期治療から入院後の治療まで、全力を尽くして治療にあたっています。

特に、ドクターカーで現場にて救急処置を行うことを含めた初期治療だけでなく、その後の各科にまたがる手術などの根本治療、リハビリテーションを含めた入院治療を、遅滞なくスムーズに行っていくことは患者さんの機能改善につながり、早期社会復帰が可能になると考えています。当科は救急科・総合内科など多くの科と連携することで、患者さんの治療戦略を立て、診療を行っています。

災害・外傷外科の体制

当科では、外傷・救急外科疾患に対する術前検査、手術、術後管理を外科専門医・救急科専門医や他科との共同で行っています。

現在、扱っている疾患は、多発外傷(頭部・顔面・胸部・腹部・骨盤・脊椎(せきつい)・四肢(しし)など)、熱傷(体表面積10%以上)、中毒などの患者さんで、年々増加傾向にあり年間350例程度です。手術は院内の手術室で行いますが、手術室まで間に合わない症例、例えば腹部臓器破裂による出血性ショックなど、循環動態の不安定な患者さんに対しては、初療室で処置や緊急の開胸・開腹術を行うこともあります(写真1)。

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写真1:初期診療での緊急手術

また、飛び降り・刺創(しそう)・中毒など身体的な問題と精神症状が合併し、自殺目的とした複雑に絡み合っている症例の方が毎年100例以上入院しています。当院では、救命救急センター部門に精神科医を配置し、このような患者さんに対して当科と精神科がカンファレンスや併診することで、身体的な治療だけでなく、併行して精神的な治療を行い円滑な身体治療に努めています。特に一酸化炭素中毒の患者さんでは、高圧酸素療法(写真2)など計画的な治療法を行っており、多くの患者さんが近隣の病院や救命救急センターから紹介搬送されてきます。

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写真2:高圧酸素療法室

救命から運動機能回復まで

災害・外傷センターに搬送された外傷患者は、手術などが終了し全身状態が安定した時点で、一般病棟へ転棟されます。救急搬送される患者さんのうち、内科系の救急患者は救命さえできれば、比較的早期に急変直前の状態に戻ることが多いのですが、外傷患者は受傷直前まで全くの健康体であった方がほとんどであり、救命できたとしてもその時点での全身状態は受傷直前の状態にはほど遠いことが多く見受けられます。

一昔前まで重症外傷患者は「とりあえず救命する」という概念でしたが、今では「救命だけでなく運動機能を回復させる」という考えになっており、極めて重要なことです。そのために、救命のための治療と併行して、機能回復のためのリハビリテーションを集中治療室から開始しています。また、初期治療にあたった医師が最後まで関与して、その機能予後を知ることは初期治療の改善に有用です。

したがって、外傷の治療は初療からリハビリテーションまでの治療が必要であり、重症状態が改善したためその途中で転院することは、最終的に治療成績の悪化につながります。当科ではリハビリテーション科と定期的にカンファレンスを行うことで、リハビリテーションを含めた機能回復のための治療にも力を入れています。

災害医療

災害分野では、DMAT(災害時派遣医療チーム)の一員でもあり、当院スタッフは熊本地震やフィリピン台風などで現場に直行し、活動をしています。また、西日本豪雨では被災地で災害コーディネートを行うことで、孤立した病院患者の移送を計画しました。伊勢志摩や大阪サミットでは医療班として活動しました。テロ災害が叫ばれる中、当科スタッフはこれらに対応できる技術を持つよう、日頃より励んでいます(写真3)。

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写真3:DMAT訓練

更新:2024.10.18