乳がんの個別化治療の展開

山梨大学医学部附属病院

消化器外科、 乳腺・ 内分泌外科

山梨県中央市下河東

乳がんとは?

乳がんは日本人女性の9人に1人が罹(かか)るがんであり、1年間で新たに診断される患者さんの数を調べると、女性のがんの中では第1位です(1)。一方、亡くなる数では第4位であり(2)、治療効果の良いがんです。乳がんには非浸潤がんと浸潤がんがあり、乳管や小葉内(乳汁を作って運ぶところ)にとどまっている場合は非浸潤がんと呼び、その周囲にがんが広がった場合は浸潤がんと呼びます。非浸潤がんは手術のみで完治が可能ですが、浸潤がんは再発を予防するために薬物治療が必要となることが多いです。また、乳がんの中には遺伝する乳がんがあり、近年、注目されています。

[出典](1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)、2019年
(2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(人口動態統計)、2020年

乳がんの検査・診断

乳がんは無症状のまま検診で発見されるか、しこりを自覚して発見されることが多く、痛みで発見されることはほとんどありません。検診やしこりを自覚して外来を受診した場合、最初にマンモグラフィ検査(乳房のX線検査)と乳房超音波検査(写真1)を行います。

写真
写真1 乳房超音波検査の様子

2つの検査で乳がんが疑われる腫瘤(しゅりゅう)(できもの、こぶ)や石灰化(カルシウムの沈着)を認めた場合は、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)や針生検(図)を行います。

図
図 穿刺吸引細胞診と針生検
(出典:日本乳癌学会編『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版』、金原出版)

乳がんと診断した場合は、免疫組織染色を追加してサブタイプ(※1)を調べます。サブタイプはルミナールタイプ、トリプルネガティブタイプ、HER2タイプに分類され、サブタイプごとに治療方法が異なります(表)。また、CT検査やMRI検査、必要に応じて骨シンチグラフィ検査・PET検査を行い、病期(ステージ)を決定します。
※1 サブタイプ:乳がん細胞の特徴をもとに、乳がんを分類したもの

表
表 各サブタイプと、推奨される薬物治療

乳がんの治療

乳がんのサブタイプや病期に従って、治療方針を決めます。治療には薬物治療であるホルモン剤の内服治療、抗がん剤の点滴治療のほか、手術治療、放射線照射治療があります。

早期乳がんはまず手術を行い、切除されたがんの病理診断で、術後の薬物治療を行うか、行うとしたらどの薬剤を使用するかを決めます。ルミナールタイプの乳がんであればホルモン治療を、トリプルネガティブタイプやHER2タイプの乳がんであれば抗がん剤の点滴を選択します。

一部の進行した乳がんでは、まず外来通院で抗がん剤を投与し、がんを小さくしてから手術を実施します。手術には、部分切除術(温存手術)と全切除術があります。

部分切除術の場合は、術後に放射線照射治療を行います。全切除術の場合は形成外科と連携し、一次再建(乳がんの手術と同時に乳房を再建)もしくは二次再建(乳がんの治療終了後に改めて乳房を再建)を行うことが可能です。当院では、二期再建(初めに皮膚を伸ばす器具を半年ほど入れ、そのあとに人工乳房に入れ替える再建法)を主に行っています。

遠隔転移のある乳がんは、基本的に手術適応がない場合が多く、患者さん一人ひとりの生活の質を一番に考えながら、薬物治療や放射線照射治療を行います。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について

HBOCは、BRCA遺伝子(※2)の異常によって乳がんや卵巣がんになりやすい患者さんのことで、若年発症や乳がん・卵巣がんの家族歴があることが特徴です。また前立腺がんや膵臓(すいぞう)がんを発症する場合もあります。

乳がん患者さん全体の4%程度が該当するとされ、HBOCが疑われる乳がんを発症している患者さんに対し、BRCA遺伝子検査が保険適用となりました。血液検査で調べることができ、費用は7万円前後で、結果は2週間ほどでわかります。HBOCと診断された場合は、がんになる前に反対側の乳房や卵管・卵巣を切除するリスク低減手術(アンジェリーナ・ジョリーさんが受けた治療として有名)が、保険適用となります。

また遺伝性疾患なので、この遺伝子の異常は患者さんの血縁者に共有される場合があります。患者さんやその血縁者の今後の健康管理のために遺伝子検査を受けるべきか迷った場合は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

※2 BRCA遺伝子:細胞が、がん化することを抑える働きをもつ遺伝子

更新:2024.04.26