会員登録誰でもなりうる骨盤臓器脱と婦人科検診
山梨大学医学部附属病院
産婦人科
山梨県中央市下河東
骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)とは?
女性のヘルスケア分野では、思春期から老年期のトラブルまで、幅広い病気を扱います。中でも、昨今の高齢社会で、実は多くの女性が悩まされていながら、なかなか受診につながりにくい現状にあるのが、「骨盤臓器脱」という病気です。この病気になると、骨盤内にあるはずの子宮や膀胱(ぼうこう)、直腸などが、本来の位置より下がってきて腟からはみ出てきます。ある調査によれば、閉経後から80歳までの女性の4割が、この病気を持っているともいわれています。
大切なことは、いつまでも健康な毎日を過ごせるよう定期的に婦人科検診を受け、その際に日々体に感じている不安も相談し、早期の異常発見、不安の解消、対応へつなげていくことです。
骨盤臓器脱の発生と症状
骨盤臓器脱は、子宮を骨盤内に固定している筋肉や靭帯(じんたい)が、妊娠・出産、加齢や肥満などによって緩んだ状態になってしまい、進行すると子宮や膀胱、直腸が腟の外にまで下がってきてしまう状態(図1、2)をいいます。女性なら誰にでも起こる可能性がある病気で、最初は重いものを持ち上げたときやトイレの後など、腹圧がかかったときに足の間の違和感や子宮が下がった感じとして現れます。
進行すると、常に臓器がはみ出た状態になるので、下着に擦れて出血してしまったり、尿もれや尿が出にくいなど、排尿時のトラブルを生じることが多くなります。何より、足の間に常に何かが挟まっているようで歩きにくくなるため、外出をためらうようになったり、大好きだった銭湯にも恥ずかしくて行けなくなるなど、楽しみだったことができなくなる「生活の質」の低下の原因になり得るのです。
骨盤臓器脱の診断と治療
どのくらい臓器が下がってきているかの判断は、内診台という、足が開いた体勢をとれる診察台に座った状態で行います。息んでもらったり、腟の中を触ったりして、組織の緊張や損傷の程度を判断します。
治療法は、①臓器の下がってきている程度がまだ軽度であれば、臓器を支えている骨盤底の筋肉を収縮させて鍛える「骨盤底筋トレーニング」、②ある程度進行し腟の外まで臓器が下がって出たままになってしまっている場合には、「ペッサリー」というリング状の装具(写真)を用いて、臓器を腟内に戻す、③それでも脱出を繰り返すようであれば「手術」、の3つです。
手術となった場合いくつか方法がありますが、当院では、適応条件を満たせば「ロボット支援下仙骨腟固定術(しえんかせんこつちつこていじゅつ)」という創部は小さく体への負担も少ない術式を積極的に行っています。
この手術では、ダビンチという手術支援ロボットを使用し、腹部に5か所のみの小切開で、子宮の主要部分を腟から摘出します。その後、メッシュという網目状の布で子宮の残りの部分を吊り上げて、仙骨(第5腰椎)の前面に固定する(図3)ので、再発率が少ないことに加え、骨盤臓器脱全般に対応が可能です。
婦人科検診を受けましょう
骨盤臓器脱のこと、ご理解いただけたでしょうか。
もし皆さんが定期的に婦人科検診を受けていれば骨盤臓器脱も含めて婦人科的な異常を早期に発見し、症状がひどくなる前に対応することができます。それは婦人科がんについて、特に言えることです。
子宮頸(しきゅうけい)がんは20歳代・30歳代で急増中ですが、日本のがん検診受診率は先進国の中で最低レベルで、米国では80%以上の女性が受けているのに、日本では40%程度です。
「進行してからの発見」では、子宮を残すことができない可能性が高くなります。ぜひ20歳代・30歳代の若い頃から、定期的に子宮頸がん検診を受けましょう。そして、子宮がんは高齢の方でも起こりますし(図4)、子宮体がんや卵巣がんは増加傾向にあります。閉経後であっても、定期的な婦人科検診は継続するようにしましょう。
(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」〈人口動態統計〉)
2021年4月には、厚生労働省が約8年ぶりに、子宮頸がんの予防となるHPVワクチンの積極的勧奨を再開しました。2022年4月からは、HPVワクチンのキャッチアップ接種(積極的勧奨が差し控えられていた時期に、接種対象年齢だった方が接種機会を逃した場合、公費で接種を受けられます)も始まっています。
ぜひ、まずこの機会に自身の体の状態を正しく知るために婦人科検診を受け、健康で充実した日々を、安心して過ごせるようにしましょう。
更新：2024.04.26