ハイブリッド手術室で治療する脳卒中 ―脳動脈瘤治療―

山梨大学医学部附属病院

脳神経外科

山梨県中央市下河東

脳卒中(のうそっちゅう)とは?

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって脳が障害を受ける病気で、脳梗塞(のうこうそく)と脳出血、くも膜下出血(まくかしゅっけつ)の総称です。

このうちくも膜下出血は、脳の太い動脈に発生する瘤状(こぶじょう)あるいは紡錘状(ぼうすいじょう)の脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)といわれるコブ(図1)が破裂し、脳の表面を覆っているくも膜の内側に出血をきたして、発症します。脳卒中の中でも最も予後(病状についての医学的な見通し)が悪いといわれており、約1/3の方は死亡、約1/3の方は後遺症が生じ、残りの約1/3の方しか社会復帰できない、恐ろしい疾患です。

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図1 脳動脈瘤(画像提供:Stryker Japan K.K.)

脳動脈瘤が見つかったら?

脳動脈瘤は、破裂するまでのほとんどの場合、症状がありませんが、破裂すると、突然の激しい頭痛や嘔吐(おうと)を引き起こし、時にはこん睡状態に陥ることもあります。近年は、脳ドックや頭痛などの精密検査で行われる脳MRI検査によって偶然、未破裂の状態で発見されることが増えています。

いったん破裂した脳動脈瘤は再破裂する危険性が高く、再破裂をきたした場合は、さらに症状が悪化します。1か月以内に約50%が再度破裂し、特に24時間以内が最も危険といわれています。そのため、破裂した脳動脈瘤の治療は来院後なるべく早期、できれば48〜72時間以内に行われることが勧められています。

一方、未破裂の場合は、発生部位、既往歴、大きさや形状などを考慮して、治療方針を立てます。破裂のリスクが低いと判断される場合には、治療は行わず経過観察していくこともあります。

脳動脈瘤の治療は、開頭手術(かいとうしゅじゅつ)によるクリッピングと、血管内治療によるコイル塞栓術(そくせんじゅつ)があり、それぞれの治療の専門家が相談して、最適な治療方針を選択し提示します。

脳動脈瘤の治療

開頭手術

開頭手術で行うクリッピング術では、手術顕微鏡で直接、動脈瘤を観察し、金属(チタン製)のクリップを用いて動脈瘤を閉塞(へいそく)させます(図2)。確実性の高い方法であり、開頭術のほうが適している患者さんに対しては、開頭術をお勧めしています。

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図2 クリッピング術(画像提供:Stryker Japan K.K.)

当院では手術中に内視鏡を用いて、手術顕微鏡では見ることのできない脳の組織や動脈瘤の裏側を観察し、クリップが確実に動脈瘤を閉塞させているか、あるいは正常な血管や神経を誤って挟んでいないかなどを確認しています(写真1〜3)。

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写真1 内視鏡
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写真2 顕微鏡の視野
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写真3 内視鏡の視野

血管内治療

血管内治療では、主にコイル塞栓術を行います。血管撮影装置を用いて、鼠径部(そけいぶ)(太腿(ふともも)の付け根)の動脈に細いカテーテル(医療用の管)を挿入して、これを動脈瘤まで誘導し、金属のコイルを動脈瘤内に詰めて閉塞させます(写真4、図3)。

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写真4 血管内治療中の手術室
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図3 コイル塞栓術(画像提供:Stryker Japan K.K.)

血管内治療はクリッピング術と異なり、脳を直接触ることのない、より低侵襲(体に負担の少ない)な治療ですが、動脈瘤の形や大きさによっては不向きな場合があります。

最近では、従来の血管内治療では治すことが難しく、大がかりな開頭手術が行われていた大型脳動脈瘤に対して、フローダイバータ-という新しいステント(※)治療が開発されました。

特殊なステントを動脈瘤をまたぐように血管に留置すると、動脈瘤は徐々に血栓化し、小さくなっていきます(図4)。フローダイバイター治療は、今のところ限られた施設でしか施行することができず、2022年8月現在、県内では当院が唯一治療認定を受けています。

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図4 フローダイバーターステントによる動脈瘤治療

(※)ステント:血管を内側から広げるための、金属でできた網状の筒

ハイブリッド手術室について

当科では、2016年からハイブリッド手術室が稼働しています(写真5)。ハイブリッド手術室とは、手術台に血管撮影装置を組み合わせた手術室のことで、開頭手術と血管内治療の両方を行うことが可能です。

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写真5 当院のハイブリッド手術室

開頭手術では、動脈瘤の位置や大きさによって、内視鏡を使っても、クリップをかけた後の動脈瘤の閉塞や、裏に隠れた血管の温存が確認できないことがあります。ハイブリッド手術室では開頭手術中に血管撮影を行い、これらの見えない情報をリアルタイムに獲得することができ、より安全で確実な治療が可能となります。

また血管内治療中に動脈瘤から出血をきたした際に、速やかに開頭手術に移行することもできます。

更新:2024.04.26