神経内分泌腫瘍に対するアイソトープ治療
山梨大学医学部附属病院
放射線科
山梨県中央市下河東

神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう)とは?
ホルモンやその類似物質を分泌する役割を持ち、全身に分布する神経内分泌細胞に由来するのが神経内分泌腫瘍で、膵臓(すいぞう)や消化管、肺など、全身のさまざまな部位から発生します。まれな腫瘍ですが、世界中で増加傾向にあります。アップル社(アメリカ)のCEOだったスティーブ・ジョブズ氏が罹患(りかん)していた疾患として知られています。一般的な悪性腫瘍に比べてゆっくりと進行することが多いですが、肝臓やリンパ節など全身に転移することもあります。見つかった時点ですでに転移している場合もあり、それぞれの患者さんの状態に応じて、さまざまな治療法が選択されます。

神経内分泌腫瘍の診断
神経内分泌腫瘍は全身の臓器に発生しますが、消化管に発生するものが約60%、肺や気管支に発生するものが約30%を占めます。腫瘍から分泌されるホルモンが人体に強い影響を与える機能性と、症状のない非機能性に分けられます。
発生する臓器により症状もさまざまですが、機能性の場合は下痢や低血糖など、特徴的な症状で診断されることが多く、非機能性の場合には症状が出にくいため、腫瘍が大きくなってから見つかることも多くあります。
診断は、造影CT(コンピューター断層撮影)検査や造影MRI(磁気共鳴画像診断法)検査などの画像診断が重要ですが、近年はソマトスタチン受容体シンチグラフィという、RI(放射性同位元素)検査が有用となっています。
RI検査とは、微量の放射線を出す放射性医薬品(アイソトープ)を注射などで投与し、臓器や病変部に集まった検査薬から放出される放射線を専用のカメラで撮影することで、臓器の血流状態や機能、病気の広がりを調べる検査です。
神経内分泌腫瘍にはソマトスタチン受容体というペプチドホルモンが発現していることが多く、ソマトスタチン受容体シンチグラフィで腫瘍に集まりが認められます(図1)。転移があれば転移巣にも集まりがあることが多いので、全身検索にも有用です。

胸部および腹部のリンパ節転移に集まりが見られます(赤く光っている部分が病変)
神経内分泌腫瘍に対する治療
神経内分泌腫瘍に対する治療法は、まずは手術です。転移病巣も切除可能であれば、手術適応となります。転移病巣が多く切除が困難な場合は、抗がん剤など、それぞれの患者さんに適した治療法が選択されます。
その選択肢の1つとして、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)をご紹介します。海外では日本より早く、神経内分泌腫瘍に対する治療法の1つとして、2017年9月から始まっていた治療法です。
PRRTに用いるアイソトープは、日本国内では2021年6月に初めて承認され、9月に販売開始されました。
PRRTは、ルテチウムオキソドトレオチド(Lu-177)という放射性医薬品を用い、点滴で患者さんに投与します。この医薬品が患者さんの体内に入ると、ソマトスタチン受容体シンチグラフィと同じように、神経内分泌腫瘍に集まります(図2)。集まったところでやや強い放射線が出るので、患者さんの体の中で腫瘍に放射線が当たり、病巣を攻撃します。

ソマトスタチン受容体シンチグラフィと同じ病変部に、強い集まりが見られます
Lu-177を投与された患者さんからは放射線が出ており、周囲の人に多少の放射線が当たってしまいます。そのため、このような治療を受ける患者さんは、隔離された特殊な病室に入ってもらう必要があります。
アイソトープ治療
PRRTのようなアイソトープを使った放射線治療を内照射療法といいます。神経内分泌腫瘍のほかに、甲状腺がんやバセドウ病といった甲状腺疾患、前立腺がんの骨転移に対する治療などでも以前から行われています。
このようなアイソトープ治療を行う際、使う放射線量がある一定値より多い場合は、RI治療病室(または特別措置室)という隔離された特別な病室に入院する必要があります(写真1、2)。これは先に述べたように、周囲の人に放射線が当たってしまうことを避けるためです。

鉛の扉で遮蔽された病棟の中に、個室の病室があります

病室の窓は鉛強化ガラスで、開きません
アイソトープから出てくる放射線にはそれぞれ半減期があり、ある一定の日数ごとに出てくる放射線は半分に減っていき、時間が経てばほとんど出なくなります。特別な病室で治療をした患者さんは、体内から出る放射線を毎日測定し、決まった値まで低下したら退院できます。
PRRTの場合は、治療の翌日にはこのような病室から出られることがほとんどです。治療終了時には、腫瘍に薬が集まっているかどうか画像を撮って確認します(図2)。PRRTは8週ごとに計4回行う治療です。国内ではまだ始まったばかりですが、海外のデータでは治療効果の期待できる治療です。副作用は吐き気や倦怠感、骨髄抑制(こつずいよくせい)(白血球減少や貧血)、腎機能障害(じんきのうしょうがい)などです。
PRRTは高額な治療ですが、国内で保険適用となっており、高額療養費制度を利用すれば、自己負担の上限額で治療ができます。
更新:2024.04.26