透析×手術~安心して手術に臨める環境づくり~

中部ろうさい病院

腎臓内科

愛知県名古屋市港区港明

透析患者さんが手術を受けるにあたって

近年、国内では長寿化・高齢化や腎臓病(じんぞうびょう)患者さんの増加に伴って、透析を受けながら生活している方が増えつつあります。2018年時点で、およそ34万人と報告されています。

透析患者さんは、脳梗塞(のうこうそく)や狭心症(きょうしんしょう)・心筋梗塞(しんきんこうそく)といった血管の病気になりやすいといわれており、入院やカテーテルの手術を受けることがあります。そのほか、がんの検査や手術のための入院や、高齢の患者さんが多いために骨折や脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)など、整形の病気で手術を受けることもあります。白内障などの眼科手術や、中には急に体の具合が悪くなって緊急手術になる方もいます。さらに理由はさまざまですが、病気やけがに伴い、時には入院や手術が必要になります。

透析患者さんにとって、入院先で安心して透析が受けられることは、とても重要なことだと考えています。

手術前後は体の状態が大きく変わることがあり、食事が中止になったり、点滴をしたり、食生活も平常とは異なります。元の状態や手術の種類にもよりますが、術前後にはカリウム・リンといった電解質の異常や、むくみ・血圧低下などの透析合併症が起きることもありますので、体の状況に応じて適切にドライウェイト(透析終了時の至適体重(*1))や透析条件、薬の調整をしていく必要があります。

*1 至適体重:ある状態にとって極めて適した体重のこと。理想体重ともいい、透析患者や妊婦に対して使用される用語

当院の透析医療

当院は、1フロアの透析室に28床のベッドがあり、月水金・火木土シフトで、午前・午後の2クールずつ稼働しています。通院透析と入院透析の患者さんが同じフロアで透析を行います。

他院で透析している方は、かかりつけ医から透析条件・血液検査結果・薬の種類や量・シャントの状態などについて、必要な情報をもらった上で入院中の透析内容を設定します。退院する際には手術担当科だけでなく、腎臓内科からも透析に関しての情報提供をかかりつけ医に行うことで、退院後の透析がスムーズに行えるよう配慮しています。

手術のために入院する透析患者さんには、透析担当医として腎臓内科の医師が1人つきます。そのほか、曜日ごとに透析室の担当医師がおり、日々の回診や状態のチェック、不調があった際の対応などを行っています。

また、当院では腹膜透析も施行しており、腹膜透析患者さんの手術や入院中の透析も対応可能です。

写真
写真 透析室

周術期(*2)における透析医の役割

手術という普段と異なる環境において、できる限り普段と同じ体の状態を保つことが大切だと考えています。例えば、浮腫(ふしゅ)の程度や血圧、貧血やそのほか、カリウム・リンといった血中のミネラルの値が大きく変動するのは望ましくありません。手術や入院の前後では状態によって、むくみが出たり貧血が進んだり、血圧が上下することがたびたび起こります。それに合わせて透析のやり方や、透析後の薬を変更することがあります。

また、禁食中の点滴はある程度カリウムを入れないと、逆にカリウムが下がり、不整脈などの危険な状態になることがあります。さらに、点滴の量が多すぎると透析での除水(自分の尿のかわりに、体にたまった水分・塩分を透析中に取り除くこと)に苦労することもあります。そういった観点から、点滴の量や種類も主治医の先生と相談し、調整することが重要です。

術前透析では、可能な限りドライウェイトを目標に不要な体液を取り除き、カリウムなど電解質のバランスを整えておくことが大切です。

術後透析では、血液をサラサラにする薬を出血を写真 透析室起こしにくいものに変更したり、貧血があれば透析時の貧血の薬や鉄剤を適宜調整します。手術前後に食事が禁止されていたり、術後に食が進まないと、体重が減ったりカリウムが不足することもありますので、ドライウェイトや薬の調整で対応をします。

また、入院中に使用する薬剤について適切な種類・量かどうか、薬剤部からもチェックが入ります。

手術を行う診療科は医療を行う「主役」ですが、透析医は「名脇役」であることをめざして、手術を受ける患者さんを支えていきます。

*2 周術期:入院、麻酔、手術、回復といった、患者の術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間

更新:2022.03.23