超急性期脳梗塞治療および血管内治療 脳梗塞

大垣市民病院

脳神経外科

岐阜県大垣市南頬町

脳梗塞とは

脳梗塞は、脳を栄養する血管が血の塊(かたまり)(血栓(けっせん))などによって詰まる疾患ですが、詰まる血管の太さ、部位により症状はさまざまです。典型的な症状は、突然体の半分が痺(しび)れる(感覚障害)、動かしにくさ(運動麻痺)、話しにくさ(構音障害(こうおんしょうがい)、失語(しつご))で、目の見えにくさ(視野障害、黒内障(こくないしょう))や異常行動などを発症することもあります。また太い血管が急に詰まった場合は、特にその神経症状の程度が強く、共同偏視(きょうどうへんし)(両目が一方向を向いたままの状態)や意識障害を呈することもあります。太い血管が閉塞する重症型脳梗塞は、寝たきりとなる方も多く、最悪の場合死に至ります。

以前は、脳梗塞を発症すると、さらなる脳梗塞を予防するためのサラサラの薬(抗血栓薬)を投与する「予防的治療」が主体で、治療により症状を改善させることはできず、リハビリテーションを行うしかありませんでした。

しかし、実は脳梗塞は血管が詰まった瞬間に脳梗塞が完成する訳ではなく、詰まってから脳梗塞完成までに「少しの時間差」があります。この「少しの時間差」に着目し、脳梗塞が完成する前に脳の血流を回復させ、劇的に症状を改善させる治療(超急性期脳梗塞治療)が近年急速に発達し、患者さんの症状改善や救命に大きく貢献しています。超急性期脳梗塞治療には脳血栓溶解(ようかい)療法(t-PA静注(じょうちゅう)療法)と機械的血栓回収療法(血管内治療)があり、それぞれ適応が異なります(図1)。

フローチャート
図1 急性期脳梗塞の治療フローチャート

脳血栓溶解療法(t-PA静注療法)

「t-PA」という非常に強力なサラサラの薬を点滴から行い、脳血管に詰まった血栓を溶かします。中等症以上の脳梗塞が適応で、発症から4時間半以内に投与されることが原則です。ただし、過去に脳出血を起こした方や数か月以内に大きな手術を受けた方などは使用できないなど、治療適応に制限があります。

機械的血栓回収療法(血管内治療)

カテーテルにより詰まった血栓を取り除く手術法で、主に太ももの付け根の血管から行います。脳を栄養する太い血管が詰まった最重症型脳梗塞の患者さんに適応されます(図2)。血栓を吸引するカテーテルと、ステント型血栓回収デバイスという、血栓を絡め取るカテーテルの2種類があります。

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図2 太い血管(左中大脳動脈)が血栓により閉塞した症例。治療前後で血管が再開通していることが分かります

近年、この治療の有効性が示されてから世界的に急速に広まっており、国内でも日本脳卒中学会のガイドラインで強く推奨され、t-PA静注療法との併用で高い効果を上げています。

機械的血栓回収療法の利点は、t-PAが発症から4時間半までの投与が原則なのに対して、その適応時間が長く、かつt-PAで溶かしきれない大きな血栓も除去が可能なことです。当院では発症から8時間以内、または24時間前までに異常がなかった患者さんのうち、MRIなどの画像診断で治療が有効と考えられる場合に適応しています。

非常に有効な機械的血栓回収療法ですが、実施できるのは日本脳神経血管内治療学会の専門医、あるいはそれに準ずる技術を持つ医師のみであり、都市部に偏りがちなのが現状で、全国どこでもこの治療が受けられるようにすることが課題です。当院では、この治療を脳神経外科の脳血管内治療チームで行っており、2018年度は年間33件実施し、岐阜県でトップの治療件数を誇ります。

早期受診が重要

超急性期脳梗塞治療は、発症してから治療開始までが早いほど、患者さんの術後経過も有効とされています。そのため、いつでも、少しでも早くこれらの治療を提供するため、当院では2018年より脳神経外科・神経内科・救急科・総合内科が中心となって、西濃地区で唯一の脳卒中当直を設置し、超急性期脳梗塞治療に精通した医師が24時間365日院内に常駐することで、どのような患者さんも例外なく受け入れ、迅速に対応できる体制を整えています。

脳梗塞は、多くの場合痛みを伴わないため、「様子を見ていれば治るのでは」「寝たら良くなるだろう」と考えている患者さんが多いのも事実で、来院までに時間がかかってしまい、この治療が受けられなくなることもあります。少しでもおかしいと感じたら、速やかに専門医のいる医療機関を受診することが重要です。

また心房細動などの不整脈があると、心臓の中で血液がよどみ血栓ができやすく、重症型の脳梗塞になりやすい傾向があるため、循環器内科で治療を受けておくことが重要です。さらには、脳梗塞に限らず脳卒中一般においては、高血圧や高脂血症、糖尿病などを早期に治療することも大切です。

更新:2022.03.08