充実した検査体制で、がん治療に寄与 病理検査

大垣市民病院

医療技術部診療検査科

岐阜県大垣市南頬町

認定技師が検査をリード

病理検査は、確定診断や治療方針決定、予後予測を目的とする検査であり、当院の病理細胞診室は、がん治療に寄与することを主眼として行っています。病理細胞診室には9人の常勤病理検査技師が在籍し、病理検査や細胞検査に係る専門の認定資格を積極的に取得しています。

現在当院には、日本臨床細胞学会が認定する細胞検査士、国際細胞学会が認定する国際細胞検査士、日本臨床衛生検査技師会が認定する認定病理検査技師、日本臨床検査同学院が認定する二級臨床検査士(病理学)の取得者がいます(表1)。

認定資格 取得人数
認定病理検査技師 1
二級臨床検査士(病理学) 7
細胞検査士 7
国際細胞検査士 3
特定化学物質および
四アルキル鉛等作業主任者
3
有機溶剤作業主任者 31
表1 病理検査・細胞検査に係る専門資格取得者数(当院病理細胞診室所属者)

免疫組織化学染色が充実

組織検査において年々需要が高まってきている免疫組織化学染色(表2)は、現在110種の抗体を保持しており、多種にわたって疾患鑑別を行っています。2008年に自動免疫染色装置を導入し、コンパニオン診断(医薬品の効果や副作用を、投薬前に予測するために行う臨床検査)では、2010年より乳がんに対するHER2(HercepTest)、2015年より肺がんに対するALK(ヒストファイン ALKiAEP)、2017年より肺がんに対するPD-L1(IHC 22C3pharm DX)、そして2018年より大腸がんに対する上皮成長因子受容体(EGFR pharm DX)の院内実施を開始しました。特に、肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測であるPD-L1を測定できるのは岐阜県内では当院だけであり、迅速な検査結果の提供によりストレスなく、治療を開始することが可能となっています。

  2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
HER2 416 500 452 497 504
ER 284 318 314 326 290
PgR 283 319 313 325 290
PD-L1 121 137
肺がんALK 56 72 100 105
EGFR 199
4種抗体以上使用対象疾患症例 437 466 506 554 571
上記以外通常加算症例 1271 1282 1231 1339 1475
総計 2691 2941 2888 3262 3571
表2 免疫組織化学染色(過去5年間の件数)

検体提出から結果報告まで約30分で行う、術中迅速(じゅつちゅうじんそく)組織検査も院内で実施しています。年間200件を超える依頼がありますが、この術中迅速検査においても免疫組織化学染色を行える体制を整えています。岐阜県では他県に先駆けて迅速免疫組織化学染色の条件を検討し、2017年より運用を開始しました。

細胞検査においても、免疫組織化学染色の有用性が示されています。当院では、5年前より体腔液を中心にアルギン酸ナトリウム処理によるセルブロックを作製し、MOC-31、カルレチニン、ポドプラニン、デスミン、EMA、サイトケラチン5/6、p40、TTF-1、クロモグラニンA、シナプトフィジン、CD56、CD68、CD20、CD3などの抗体を使用して、腫瘍(しゅよう)細胞の検索を積極的に行っています。

出張細胞検査

細胞検査では、生検回数や穿刺吸引(せんしきゅういん)回数を無駄に増やすことなく、質の高い検査を担保する目的で、外来や病棟に赴いての検査も実施しています。頭頚部(とうけいぶ)・耳鼻いんこう科や歯科口腔(こうくう)外科で甲状腺、唾液腺、リンパ節の穿刺吸引、口腔内擦過を行う際には、細胞検査士が現場に出向き、臨床診断および画像所見を確認した上で、適切な検体処理を行っています(ベッドサイド検体処理)。

また、呼吸器内科で行われる経気管支肺生検(TBLB:TransBronchial Lung Biopsy)や消化器内科で行われる超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA:Endoscopic Ultrasound-Fine Needle Aspiration)では、細胞検査士による検体処理に加えて、その場で染色および検鏡をする迅速細胞診検査(ROSE:rapid on-site cytologic evaluation)を積極的に実施しています(表3)。この迅速細胞診検査は、充実した病理スタッフと臨床医の連携が不可欠ですが、実施可能な施設は東海地域でも限られています。

表2 免疫組織化学染色(過去5年間の件数)

  2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
迅速細胞診検査
(ROSE)
消化器内科 18 16 21 22 27
呼吸器内科 45 25 66 70 62
ベッドサイド
検体処理
頭頚部
耳鼻いんこう科
443 463 446 471 483
歯科口腔外科 181 223 217 211 325
表3 検査室外細胞検査(出張細胞検査、過去5年間の件数)

遺伝子検査

がん細胞遺伝子の異常を検索する遺伝子検査は、がん患者さんごとに治療方針を決める個別化医療(Precision Medicine)では必須とされています。しかしながら、ほとんどの医療機関では、人材不足と該当する取り扱い症例数の少なさから、外部委託検査としています。外部委託検査では、検査依頼から結果報告まで少なくとも1週間程度かかるといわれています。

当院では迅速ながん治療実施に向けて、2017年6月にPCR(Polymerase Chain Reaction)検査用核酸増幅・解析装置を導入し、翌7月から肺がんに対するEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)変異検査を、2018年4月からは大腸がんに対するRAS-BRAF変異検査を、院内検査として開始しました。これにより、検査依頼の翌日に結果報告することが可能となりました。2018年の実績では、肺がんEGFR変異検査を152件、大腸がんRAS-BRAF変異検査を223件実施し、現在では月平均40件、多い月では50件を超す検査を実施しています。

当院が名古屋大学医学部附属病院の連携病院として参画するがんゲノム医療では、病理検体を用いて腫瘍細胞の遺伝子を網羅的に検索するパネル検査が行われます。腫瘍細胞の核酸品質を担保するため認定病理検査技師が中心となって、摘出された組織のサンプリング・固定・標本作製・保存を管理しています。また、ゲノムセンタースタッフ、主治医、中央手術室スタッフとも連携をとって適切ながんゲノム医療に努めています。

精度管理で検査の質を担保

当院は、組織検査、細胞検査ともに年間13,000件に及ぶ検査依頼があり、岐阜県の医療機関ではトップクラスです。この数多い検査の質を保つために、外部精度管理(External Quality Control)と内部精度管理(Internal Quality Control)に力を入れています。

外部精度管理は、日本臨床衛生検査技師会、日本病理精度保証機構、日本臨床細胞学会、岐阜県臨床検査技師会が実施する外部精度管理調査に毎年参加し、高い評価を得ています。内部精度管理では、標準物質(コントロール切片)を用いて各種染色の妥当性確認、機器の動作点検を毎日欠かさず行っています。これにより、精度の高い病理検査結果を臨床に提供することを可能としています。

更新:2024.08.22