しんきんこうそく

心筋梗塞

基礎情報

概要

心筋梗塞とは、心臓に血液を送る冠動脈(かんどうみゃく)が完全に詰まることにより、心筋(心臓の筋肉)が酸素不足に陥り、その状態が続くと、心筋の細胞が壊死(えし)してしまいます。壊死した細胞は二度と元の状態には戻らず、命に関わるため、心筋梗塞には発症後速やかで適切な処置が必要です。

たとえ治療によって血流が再開しても、心臓が不安定な状態になっている間は、不整脈(心室細動)、心不全、心破裂などの合併症などの重い合併症が起こりやすくなります。心筋梗塞は、治療が終わった後も、十分な経過観察が必要です。

心筋梗塞や狭心症など、心筋への血流が止まる、あるいは悪くなることにより引き起こされる心臓の疾患は、虚血性(きょけつせい)心疾患と呼ばれます。これに、心筋症心臓弁膜症(べんまくしょう)などを加えた心疾患は、日本人の死因において、悪性新生物(がん)に次ぐ第2位となっています。

原因

心筋梗塞の主な原因は、血管の弾力性が失われ硬くなってしまう動脈硬化です。冠動脈の内側の壁にコレステロールなどが固まったプラークや血栓(けっせん)ができ、血管が狭くなったり、弾力性が失われて破れやすくなったりします。

この塊の部分が大きくなり詰まる、あるいは崩壊して血栓を生じることにより心臓への血流が止まることで心筋梗塞が発症します。また、冠動脈に痙攣を起こす冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)が原因となり血流障害が生じて心筋梗塞が起こることもあります。

動脈硬化を進行させる危険因子には、脂質異常症糖尿病高血圧などの生活習慣病、また加齢、喫煙、肥満、運動不足、精神的ストレスなども挙げられます。

図
図:心筋梗塞の起こる仕組み

症状

「焼けつくような」「胸がえぐられるような」「押しつぶされるような」と表現される、突然の激しい胸の痛みや圧迫感に襲われるのが、心筋梗塞の主な症状です。痛みは非常に強く、冷や汗や吐き気を伴うことが多く、息苦しさを感じて意識を失うこともあります。一方で、高齢者や糖尿病の患者さんではこれらの症状がはっきりと起こらない無痛性のものもあるので注意が必要です。

狭心症と同じように、左肩や左腕、みぞおち、背中や顎(あご)など、ほかの部分に痛みが広がって、15~30分以上激しい痛みが続く場合もあります。数時間経つと痛みが引くこともありますが、これは心筋の壊死によって痛みを感じなくなった可能性があり、やがて呼吸困難や意識障害、血圧低下が起こるなど、重大な事態を招きかねません。

検査

心筋梗塞が疑われる場合は、次のような検査が行われますが、ほとんどの場合、検査と同時に治療も行われます。

心電図検査

胸など体の表面に付けた電極で心臓の電気的な動きを読み取り、波形に記録します。心筋梗塞が発症すると特有の波形が確認されますので、最初に行われる検査です。

血液検査

心筋の障害により血液中で増える、あるいは含まれる成分を調べます。治療後も経過を見るために継続的に行われます。

心臓超音波検査

心臓の動きや機能の程度を調べるための検査です。冠動脈が詰まっている部分により、どこの心筋が影響を受けているのかを予測でき、加えて心臓にほかの異常があるのかどうかも調べることが可能です。

冠動脈造影検査

足の付け根や腕の動脈から、カテーテルという医療用の細い管を入れて心臓まで到達させ、血管を映し出しやすくするための造影剤を入れ、冠動脈の状態を詳しく調べます。

治療

心筋梗塞の治療は時間との勝負です。一般的には、発症後6時間以内に心臓の血流が再開されるかどうかで、治療後の生活に大きな違いが出てくるとされています。

薬物療法

冠動脈を広げるために硝酸剤、さらなる血栓の形成を防ぐために抗血小板薬が投与されます。心臓の負担を軽くすることを目的として、痛みや苦しみを和らげるための薬剤が投与されることもあります。

再灌流(さいかんりゅう)療法

静脈に血栓を溶かす薬物を注射する血栓溶解療法(t-PA療法)があります。発症から治療までの時間がどれくらいかによって、行うか行わないかが決まりますが、一般的にはその基準は6時間とされています。

カテーテル治療(PCI:経皮的冠動脈形成術)

心筋梗塞の発症後12時間以内に治療を開始することが可能であれば、足の付け根や腕の動脈からカテーテルを入れて、詰まった部分を風船で広げるバルーンや、血管の広がりを維持する効果のあるステント(網目状の筒)を挿入するカテーテル治療が行われます。

手術

血栓溶解療法やカテーテル治療が適さない場合には、体のほかの部位から採取した血管を使って冠動脈に迂回路を作るバイパス手術が行われます。体への負担は大きくなりますが、血管が再び詰まる心配は少ないとされています。

更新:2022.08.22