頭蓋縫合早期癒合症
大阪母子医療センター
脳神経外科
大阪府和泉市室堂町
頭蓋縫合早期癒合症は、どんな病気ですか?
以前は、狭頭症(きょうとうしょう)ともいわれていた病気です。
人間の頭蓋骨(ずがいこつ)は、新生児期には、左右2枚の前頭骨、同じく2枚の頭頂骨と1枚の後頭骨からできています。それぞれの骨の合わさった部分を縫合といい、前頭骨の間は前頭縫合、前頭骨と後方の頭頂骨の間は冠状(かんじょう)縫合、左右の頭頂骨の間は矢状(しじょう)縫合、頭頂骨と後頭骨の間は人字(じんじ)縫合と呼ばれます(図A)。各縫合部で頭蓋骨が形成され、脳の成長に合わせて頭蓋が大きくなっていきます。前頭骨の間は、比較的早く生後10か月前後で閉鎖しますが、それ以外の縫合は、成人以降に癒合します。
頭蓋内容積は、3歳で成人の体積の85%、5歳で90%と、幼児期までに急速に大きく成長し、その後も成人するまでゆっくりと大きくなります。
これらの縫合が通常より早く癒合を起こすと、その部分では頭蓋骨が形成されないかわりに、ほかの縫合部分で頭蓋骨が形成されることになります。結果として、両側冠状縫合早期癒合では、頭が前後に短くなり、矢状縫合早期癒合では、頭が前後に長くなります。「図B、C」のように頭蓋が特徴的に変形し、頭蓋内圧が高くなり過ぎます。
頭蓋縫合早期癒合症の発生頻度(ひんど)は、1万人当たり3〜4人といわれており、その2割は、クルーゾン病やアペール症候群などの症候群性早期癒合症です。
頭蓋縫合早期癒合症では、どんな症状が出ますか?
症状は、発症時期によって違います。乳児期では、著しい頭蓋変形が問題となります。幼児期では、頭蓋変形のほかに発達障害が現れることがあります。麻痺(まひ)などの脳局所症状は、まずみられません。幼児期後半以降に発症すると、頭蓋変形は目立たず、慢性の脳圧亢進による頭痛や発達障害が起こります。
頭蓋縫合早期癒合症では、どんな検査を行いますか?
診断には、頭蓋の状態を3次元的に確認できる3D-CT検査が有用です。この検査データから各縫合が閉鎖しているかどうかの状態や頭蓋の形態、頭蓋冠内面の指で押したようなくぼみの大きさなど重要な情報を得ることができます。同じデータから脳も評価できますが、MRI検査を追加する方が、脳の形成異常などをみつけやすいと思います。
発達障害の評価は重要です。非症候群性早期癒合症の半数、症候群性早期癒合症のほぼ全例に発達障害を伴います。幼児期後半以降では、脳圧センサーを設置し、実際に脳圧を測定して頭蓋内圧亢進を確認し、頭蓋拡大につなげることもあります。
頭蓋縫合早期癒合症には、どんな治療がありますか?
治療の基本は、縫合部の狭くなっているところを広げ、局所的に圧迫されている脳組織の減圧を図り、頭蓋の形態をできるだけ正常に近づけることです(表)。薬物療法は効果がなく、外科治療が唯一の解決策です。これまでは生後1年を過ぎると手術適応はないとされていましたが、最近では、学童期まで手術で治療します。
乳児期前半では、早期癒合した縫合部に溝を掘ること(開溝法)により、十分に手術の目的は果たせます。前頭縫合早期癒合や冠状縫合早期癒合(縫合部の一側または両側)の早期癒合では、前頭部の真ん中が突出する三角頭蓋や頭が前後に短くなる短頭蓋になり、眼窩(がんか)も侵されることが多く、眼窩前頭蓋窩を前に出す方法が行われます。その際、前頭骨を組み直し、形を整えたりすることもあります。一方、矢状縫合早期癒合によって左右の幅が狭くなった舟状頭(しゅうじょうとう)では、両側の頭頂骨を左右に広げる方法を選びます。従来からの1回の手術で広げる方法や、骨延長器を使いゆっくり広げる方法(骨延長法)があります。骨延長法は、国内で特に盛んに行われています。ヘルメットを使い、いろいろな方向へタイル状にした頭蓋を拡大する方法もあります。
頭蓋拡大術の問題点は出血量が多いことで、できるだけ出血量を減らすように工夫します。骨延長器を使う場合は、骨延長器の破損・感染など骨延長法に特有の問題点もあります。
それぞれの施設の経験と考え方により、いろいろな治療法が組み合わされています。私たちは、生後6か月以降は骨延長法を選択し、頭蓋形態の変化を確認しながら、できるだけ拡大できるような治療を行っています。
頭蓋縫合早期癒合症の治療後は、症状が出なくなりますか?
これらの頭蓋拡大術を行うことにより、頭蓋内圧は確実に下がり、頭蓋変形も程度の差こそあれ改善されます。頭蓋冠内面の押されたようなくぼみは、数か月で消失し、頭痛は治まります。この病気に伴う発達遅延・自閉症・多動症が現れている場合は、あまり改善しません。
乳児期や幼児期早期に手術をした場合では、骨新生(こつしんせい)(骨のないところに、骨が発生すること)が盛んなので、頭蓋が再び狭窄(きょうさく)を起こし、もう一度頭蓋拡大手術が必要になることもあります。幼児期後半以降では、1回の頭蓋拡大手術で済むことが多いようです。
更新:2024.10.29