傷が目立たない低侵襲手術

大阪母子医療センター

小児外科

大阪府和泉市室堂町

最近の小児の手術では、傷をできるだけ小さく目立たなくすることに、きめ細かな注意が払われています。美容的な面だけでなく、手術後の痛みが軽減され、回復も速やかになることも小さな傷の手術の利点だからです。腹腔鏡(ふくくうきょう)(後述)を使用する手術では、従来の開腹手術に比べて手術後の腸管の癒着が少ないため、術後に腸閉塞(ちょうへいそく)を起こす危険性も軽減されます。もちろん、最優先されるのは安全で確実な手術によって、しっかりと病気を治療することです。安全・確実に加えて、少しでも傷を小さく、体に与えるダメージを最低限に抑えて、早い回復を目指す低侵襲(ていしんしゅう)手術が今注目されています。

低侵襲手術には、内視鏡を使う手術(腹腔鏡手術、胸腔鏡手術)と、おへそのしわを利用した手術があります。病気によってはその両方を組み合わせることで、できる限り傷が目立たない手術を行うことができるようになりました。

内視鏡による手術

内視鏡という細いカメラを体の中に入れて、カメラの映像をモニターで見ながら、細い道具を使って体の中で行う手術を内視鏡手術といいます。

当科では、大きく分けて胃や腸などがあるお腹(なか)(腹腔)の中の手術「腹腔鏡手術」と、肺や食道などがある胸(胸腔)の中の手術「胸腔鏡手術」の2つが行われています。

腹腔鏡手術

おへそに穴をあけ、腹腔に炭酸ガスを送って空間をつくり、その中にカメラを入れると、腹腔内が観察できます。おへその傷のほかに腹部に3〜5㎜の小さな傷をいくつかつくり、そこからさまざまな道具を入れてカメラの映像を見ながら手術を行います(図1)。

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図1 腹腔鏡手術:腹腔内に入れた内視鏡カメラの映像をモニターで見ながら手術を行っています

小児や新生児でこの手術ができる病気には「表1」に示したようなものがあります。当科で扱う多くの腹部の病気がこの方法で手術できます。しばらく経つとおへその傷はほとんど分からなくなります。道具を入れた小さな穴の傷あとが少し残るだけです(図2)。

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表1 腹腔鏡手術が行われる主な小児・新生児疾患
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図2 腹腔鏡手術後の創部:お腹の傷あとはほとんど分かりません

胸腔鏡手術

胸腔にカメラを入れて手術をします。胸腔のほとんどは肺で占められているので、手術をする側の肺を一時的にしぼませてから手術を行います。また、胸の中の左右の肺に挟まれた真ん中の部分は縦隔といい、心臓や食道、気管、胸腺などがあります。小児や新生児の胸腔鏡手術では、肺や食道、胸腺、縦隔に生じる「表2」に示したような病気に対する手術ができます。

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表2 胸腔鏡手術が行われる主な小児・新生児疾患

胸腔は肋骨(ろっこつ)や背骨と筋肉に囲まれています。これまで胸腔の中の手術は皮膚と筋肉を切開し、肋骨の間を道具を使って広げて行っていました。そのため術後の痛みも強く、手術の後に胸郭(きょうかく)に変形が起こる可能性もありました。胸腔鏡手術によって、皮膚や筋肉の切開は最小限に抑えられ、骨への操作も不要になりました。

おへそからの手術

新生児や乳幼児では、お腹の皮膚や筋肉が柔らかく伸びやすい上、体が小さいので、おへその穴を使って直接臓器を見ながら手術ができます。

おへそは、もともとしわだらけなので、手術の後に切開した傷あとがほとんど分からなくなります。手術の直後にはおへそに痛みを伴う場合がありますが、この手術では外見に傷あとを全く残さずに手術が行えます(図3)。おへその中を切る方法と、周囲のしわに沿って切る方法とがあります。比較的簡単な手術が対象ですが、少し複雑な手術でも、おへそからの手術に腹腔鏡を組み合わせることにより、これまでよりもずっと小さな傷で手術ができるようになりました。

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図3 おへそからの手術の創部:新生児期におへそから十二指腸閉鎖症の手術を行った赤ちゃんのお腹です。見た目では傷あとは全く分かりません

低侵襲手術ができない場合

内視鏡による手術やおへそからの手術は、傷も小さく手術の後の痛みも少ない優れた手術ですが、当科で扱うすべての病気に行えるわけではありません。心臓や肺が悪いお子さんではかえって危険な場合があります。また、大きな腫瘍(しゅよう)を取る場合や、繰り返し手術を行っている場合には内視鏡手術は困難なことが多く、従来通り皮膚を大きく切って安全に手術を行います。また、内視鏡手術やおへそからの手術で始めても、手術中に操作が困難と判断した場合には、途中から開腹手術や開胸手術に切り換えることもあります。

小児に行われる代表的な低侵襲手術・内視鏡手術

鼠径ヘルニア根治術(LPEC)

鼠径(そけい)ヘルニア根治術は、小児に対して最も多く行われている手術の1つです。生まれつき残っている鼠径部(脚(あし)の付け根あたり)にある腹膜と連続した袋に向かい、腸や大網(だいもう)、卵巣などお腹の中の臓器が脱出する病気です。治療にはこの腹膜と連続した袋の根元を塞(ふさ)ぐ手術が必要です。これまでは下腹部を2㎝ほど切開して手術をしていましたが、腹腔鏡手術ではおへそ以外に腹部の2㎜の傷だけで手術できます。この病気は、片方の鼠径部にみられると10%ほどの小児が反対側にも発症するといわれていますが、腹腔鏡手術では反対側に袋が残っているかどうかも分かるため、両方同時に手術することができます。短時間の手術なので、日帰りが可能です。

虫垂切除術

急性虫垂炎に対して行われます。虫垂炎とは、右の下腹部にある虫垂が感染や炎症をきたしたものです。抗生剤で治癒する場合もありますが、小児の場合はときに重症となり、やぶれて腹膜炎になる危険が比較的高く、手術で虫垂を切除する場合も多くあります。

おへその切開と腹腔鏡を組み合わせて手術を行います。比較的軽症の場合は、おへその傷だけで手術を行えますが、重症な場合は、1〜3個の5㎜ほどの傷を腹部につくることもあります。

漏斗胸修復術(Nuss手術)

漏斗胸(ろうときょう)とは、肋軟骨(ろくなんこつ)という肋骨につながる軟骨が、胸骨という胸の真ん中の骨とともに陥凹(かんおう)する(へこむ)病気です。整容目的で胸の陥凹を修復することができます。以前は軟骨を切り取ったり骨を削ったりする大がかりな手術が行われていましたが、最近では、陥凹部を下から持ち上げて支えるために、胸腔鏡で確認しながら金属製のバーを留置する手術が一般的です。バーは2〜3年後に抜去します。

幽門筋切開術

肥厚性幽門狭窄症(ひこうせいゆうもんきょうさくしょう)に対して行われます。生後1〜2か月頃に幽門という胃の出口の筋肉が厚くなり、ミルクが胃から十二指腸に流れ出にくくなる病気です。

突然、嘔吐(おうと)が始まります。噴水のように大量の嘔吐がみられるのが特徴です。硫酸アトロピンという薬による治療法もありますが、効果がない場合や、短期間での治療を目指すときには手術が行われます。手術はおへそのしわに沿った切開で行います。幽門の筋肉を切り開いて胃の出口を広くします。手術後すぐにミルクが飲めるようになり、数日で退院できます。

新生児に対する手術

十二指腸閉鎖症・小腸閉鎖症根治術

生まれつき、腸の一部が途切れている病気です。途切れている腸の場所により、十二指腸閉鎖症や小腸閉鎖症と呼ばれます。最近ではほとんどのお子さんが妊娠中に診断されます。新生児期に手術が必要ですが、重症の場合やそのほかの病気を合併していない場合には、おへそからの手術が可能です(表3)。手術では、途切れている前後の腸をつなぎます。

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表3 おへそからの手術が行われる主な新生児疾患

胸腔鏡下食道閉鎖症根治術

食道閉鎖症は、生まれつき食道が閉鎖している病気です。多くの場合は気管と食道がつながっていて、呼吸困難や肺炎を起こすため、生まれてすぐに手術が必要です。最近ではこの手術も胸腔鏡で行われるようになってきました。気管と食道のつながりを切り離し、閉鎖した上下の食道をつなぐ手術を行います。比較的難度の高い手術です。また心臓などほかの臓器の病気を伴っている場合は、従来通り開胸によって手術を行います。

おわりに

傷が小さく、体にやさしい低侵襲手術は、小さくて繊細な小児に最も必要とされている手術です。傷の小さな手術は、これから成長、発達をとげて、未来へと生きていく小児にこそ最も威力を発揮する手術だと考えています。ここに挙げた病気だけでなく、今後も、小児一人ひとりの病気にあわせて、より低侵襲で安全な手術を選択していきたいと考えています。

更新:2024.01.26