運動麻痺や先天異常に対する機能回復

大阪母子医療センター

リハビリテーション科 リハビリテーション部門

大阪府和泉市室堂町

リハビリテーションとは

リハビリテーション(rehabilitation、以下リハと省略します)の持つ本来の意味は、再び(re-)能力を持たせる(habilitation)とされています。リハの目標は、障害のある人たちを、1人の市民として地域で健常者と変わりなく生活できるようにすることにあります。この目標を達成するには、障害のある人に対する治療のみならず、障害に対する代替手段の導入からかかわりを持つ社会構造の変革まで、幅広い範囲での働きかけが必要となります。

現在リハは、医学的リハ、教育的リハ、職業的リハ、社会的リハの4分野に分かれるとされています。これら4分野は互いに無関係なものではなく、それぞれが有機的に結びつくことで最大限の効果が得られると考えられています。

障害とは

リハを必要とする患者さんは、何らかの障害を有していると考えられます。障害とは、世界保健機構(WHO)によると「ある人にとって、したいという意志があるにもかかわらずできないことあるいは困難なこと」と定義されますが、障害は万人にとって普遍的な概念ではなく、障害を感じる個々により変化する相対的な概念であると考えられています。

また、病状が変化することで障害が重くなることもあれば、病状が安定していても成長や周囲環境の変化によって、患者さん自身が障害と感じる部分が変わっていくこともあります。WHOによって定められている国際生活機能分類は、障害を有する対象者の障害状況、日常生活機能能力と実施状況に加えて、対象者をとりまく背景因子に分けて考えることで、社会参加を目指すために何が必要なのかを分かりやすく示してくれています(図1)。

イラスト
図1 国際生活機能分類
(厚生労働省「生活機能分類の活用に向けて」をもとに作図)

小児では、精神運動発達に伴い運動技能は発達していき、自分自身をとりまく環境も日々変化します。このため小児においては、自分自身が感じる障害が変化していきます。このことが、自然発達を終え周囲環境の変化が少ない成人との大きな違いであり、障害を有する小児に対しては、成人と異なったアプローチが必要となります。

小児のリハビリテーションの実際

当センターで扱う小児のリハ対象には、主に「小児運動麻痺」と「四肢(しし)先天異常」があります。ともに成人分野では存在しない特性があり、特別な知識と経験が求められる分野です。

小児の運動麻痺・運動発達遅滞に対する治療

脳性麻痺を代表とする小児の麻痺と、脳梗塞(のうこうそく)を代表とする成人の麻痺との間には大きな違いがあります。成人の麻痺は、発症後半年〜1年で回復しなくなり、恒常状態となります。一方、小児の麻痺では、成長過程での運動発達が見込まれ、運動機能としては改善していきます。このため、障害を有する小児のリハでは、半年といった短い期間ではなく、成長に合わせてリハプログラムを変化させていく必要があります。

当センターでは、Neuro-Developmental-Treatmentといわれる治療法を中心に運動発達の促通を図っています。この手技は腹臥位(ふくがい)や座位、立位などの抗重力位といわれる姿勢を積極的に用いることで、立位姿勢での支持性を向上させ、運動発達を促す方法です。この方法を通じて、歩行の自立や車いす操作ができる座位獲得を目指します。

麻痺のある小児の運動発達は、残念ながら無限大ではなく、本人の持つ能力および麻痺の程度によって限界があります。リハをすることによって歩くことができない小児が全員自立歩行を得られるわけではなく、独歩以外での移動方法を模索することもリハでは重要となります。短下肢(たんかし)装具などの補助により歩行が可能となる場合や歩行杖を利用する場合(図2右)、さらには歩行に特化した特殊な機器(歩行器)を利用することで移動が獲得できる場合(図2左)、車いすを選択せざるを得ない場合など、個々の患者さんにとって最も適していて、かつ運動発達を促すことができる方法を、状態に応じて選択します。

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図2右 ロフストランドクラッチを用いた歩行練習
図2左 PC歩行器を用いた歩行練習

四肢先天異常に対する治療

四肢先天異常は状態が幅広いですが、当センターでは、縦列欠損に含まれる、前腕(肘(ひじ)から手首までの部分)に2本ある骨(橈骨(とうこつ)・尺骨(しゃっこつ))のうち母指(親指)側の骨が欠損する橈側列欠損(母指形成不全・欠損を含む)や、下腿(かたい)(膝(ひざ)から足首までの部分)に2本ある骨(脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ))のうち一方が欠損し、足部(足首からつま先までの部分)に変形をきたす脛骨列欠損・腓骨列欠損を中心に治療を行っています。ここでは、治療法が確立されている橈骨欠損の内反手(ないはんしゅ)・母指欠損型患者さんの治療について述べていきます。

上肢(じょうし)(手と腕)が行う最も大事な動作の1つに食事が挙げられます。食事動作には、母指-示指(じし)(人差し指)間で食物をつまみ、手のひらを返して指先を顔の方に向け、肘を曲げて口に運ぶ、といった一連の流れが必要になります。一方で内反手の橈骨欠損・母指欠損児では、これらの動作の多くが障害されます。まず、母指がないため示指との間でつまみ動作ができません。また手関節がなく、不安定なため手のひらを返すこともできません。さらに重度の橈骨欠損児では肘が曲げられない場合もあります。このような小児に対して、まず整形外科的な再建治療を行い(図3)、その後リハで再教育を行って機能改善を図ります。

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図3 内反手・母指欠損の治療:手関節安定化後、示指を母指化します

治療は1〜1歳半をめどに開始し、外科的治療は2歳頃までに終了、以後リハと装具療法を成長終了時まで実施します。小児に対する上肢へのリハは生活動作と密接にかかわるため、対象児の発達レベルに合わせて、ままごとや玩具などを利用しつつ実施します。

更新:2024.01.26