てんかんを知ろう

大阪母子医療センター

小児神経科

大阪府和泉市室堂町

〝てんかん〞って――発作、てんかん分類によって治療が変わる

てんかんは、大脳神経細胞の突然で過剰な興奮に由来する反復性発作(てんかん発作)を主徴とする慢性の脳疾患と定義されます。わかりやすく言えば「脳に起こる突然の地震」です。約100人に1人がてんかんと言われています。

てんかんの診断の中で、発作の様子が、一番大事な手がかりです。スマートフォンで発作を録画して見てもらうのは、‘一見は百聞に如かず’です。

てんかん発作の種類は、①脳の一部から始まる焦点発作と②脳の全体から始まる全般発作の2つに分けられます。実際の発作と脳波を検査することで、診断がつきます。血液検査、画像検査(CT・MRI・SPECT)を行い、原因を調べます。

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図1 発作の分類

てんかんの病因(構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明)、発作の種類(焦点発作、全般発作、起始不明発作)、の組み合わせで、てんかんを分類します。また、併存症(発達障害や発達遅滞など)も考慮した包括的な診断と治療を行うべきであると提言されています(表)。

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表 Scheffer et al.ILAE classification of the epilepsies. Epilepsia 2017 512·21.
日本てんかん学会分類。 用語委員会 日本語版翻訳参照

てんかんの最新治療――治療の選択肢が広がっている

てんかんの治療には、内科的治療(抗てんかん薬、食事療法など)と外科的治療がありますが、抗てんかん薬が治療の中心です。我が国では、2006年以降10種類の新規抗てんかん薬(一部は特定のてんかん症候群にのみ適応)が市販され、治療の選択肢が広がってきています。当センターでは必要に応じてビデオ脳波(ビデオを撮りながら脳波を記録する)検査も行うことで発作を正確に把握し、最適な治療方法を選択しています。

抗てんかん薬

抗てんかん薬は発作の種類以外に、てんかん分類、合併症や神経症状、性別など総合的に判断して選択します。一般的な副作用は、(1)眠気、ふらつき、(2)肝腎機能障害、(3)アレルギー(薬疹、発熱)、(4)血球減少などがありますが、それ以外にも各抗てんかん薬に特有の副作用があります。効果(発作の抑制、本人のQOLの改善)と副作用を天秤にかけながら、本人や家族の生活にとって一番良い薬剤と薬の量を調整します。3年以上発作がなく、脳波が正常化すれば、薬剤の減量を考慮します。ただし、減量により発作の再発の可能性があるため、減量する際には本人、家族としっかり話し合うことが大事です。

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図2 治療の調整

食事療法

ケトン食療法は食事療法の代表です。ケトン食とは、炭水化物の摂取を制限し、エネルギーの多くを脂肪とタンパク質から摂取するものです。昔から絶食でてんかん発作が減少することが知られていましたが、体の中でケトン体が増えるためと考えられています。このケトン体を効率よく産生する方法としてケトン食療法が注目されるようになりました。一部の難治性てんかんに有効と報告されています。しかし、低血糖、成長障害、便秘・下痢など副作用があるため、慎重に行う必要があります。

外科治療

外科治療は内科的な治療法が無効な難治性てんかんが適応になります。手術には根治手術と緩和手術があります。根治手術は、発作の原因となる脳の部位を切除して、発作を消失することを目的に行います。一方、緩和手術は、発作の回数と程度の軽減を図って日常生活の改善を目指すものです。手術方法には、脳梁離断術(左右の脳をつないでいる脳梁を切断)、迷走神経刺激法(頸部の迷走神経に電極コイルを巻きつけて電気刺激する方法)などがあります。

小児のてんかん―子ども特有の発作を早く見つけて、早く治療しよう

小児期には、さまざまなてんかんが発症します。ここでは当センターで治療経験の豊富な代表的な難治性てんかんを2つ紹介します。

ウエスト症候群

乳児期(生後6ヵ月~1歳)に発症する難治性てんかんのひとつです。診断のポイントはスパズムと呼ばれる特有の発作で、頭部を一瞬前屈し四肢を屈曲(あるいは伸展)させます。この発作は覚醒直後に起こることが多く、しばしばシリーズ形成(数秒おきに何回も繰り返す)します。1回のシリーズは数分~30分程度持続することがあります。脳波はヒプスアリスミア(ヒプス=山、アリスミア=リズムなく無秩序に出現)とよばれる特徴的な異常を認めます。治療は、ビタミンB6大量療法、抗てんかん薬(バルプロ酸、ゾニサミド、トピラマートなど)、ACTH療法、ステロイド療法、ケトン食療法などがあります。ACTH療法は筋肉注射(隔日もしくは連日)の治療で 入院を要します。この治療によって約70%発作消失しますが、約半数が再発します。また、免疫機能低下や脳が一時的に萎縮するなど、副作用に注意が必要です。2016年から新規抗てんかん薬であるビガバトリンがウエスト症候群の治療薬として発売になりました。視野狭窄の副作用があるため、定期的な眼科の診察が必要です。このてんかんは発達の停滞もしくは退行(笑顔が消失した、頸がすわらなくなったなど)が起こるため、早期診断・早期治療で発作をとめることが大切です。

ドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん)

1歳未満に、感染時の発熱、入浴時などの体温が上昇することにより発作が誘発されることが特徴的です。発作が30分以上続き、入院を繰り返すことも珍しくありません。発作は、片側もしくは両側の間代(ガクガクする)もしくは強直間代(硬直してガクガクする)発作です。1歳以降になるとミオクロニー(ピクっとなる)発作や非定型欠神(意識減損する)発作を認めるようになります。このてんかんでは、SCN1Aと呼ばれる遺伝子に異常を認めることが知られています。治療は、抗てんかん薬(バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系薬剤、臭化カリウム、トピラマートなど)、ケトン食療法が中心ですが、難治に経過します。新規抗てんかん薬であるステイリペントールの有効性が報告されています。

てんかんは長期に付き合っていく病気です。てんかんを持つお子様が毎日、元気に、日常生活を送れるように、周囲のサポートが必要です。てんかんに関して社会全体の理解がますます深まっていくことを望みます。

更新:2024.01.26