周産期病理・小児病理

大阪母子医療センター

病理診断科

大阪府和泉市室堂町

周産期病理とは

周産期病理は、胎児および新生児にみられる病気を診断し、その原因を追究し、今後の妊娠に活かしていくということが主な目的になります。対象となるのは、受精卵から出生するまでの胎児、出生から28日までの新生児、そして後述する胎児の付属物である胎盤です(図1、2)。

表・イラスト
図1 胎児期と新生児期
イラスト
図2 a:胎児と胎盤 b:胎盤の構造
(『Manual of Pathology of the Human Placenta』Springerをもとに作図)

周産期病理解剖の意義

周産期の病理解剖と成人の病理解剖は、次の点で大きな違いがあります。

1.両親の遺伝診断あるいは家族計画に役立ちます。

例えば、死亡した子どもが両親にとって最初のお子さんの場合、今後の妊娠に不安を抱くことになります。適切な病理解剖が行われ、不幸にもお子さんに奇形や遺伝疾患があった場合、遺伝カウンセリングに大いに役立ちます。詳しい剖検(病理解剖)結果は産科医にとっても、次の妊娠管理のための貴重な情報になります。病理解剖で異常な所見がなければ、先天異常や胎盤異常がないことの証拠であり、将来の妊娠に対する明るい情報となることは間違いありません。

2.周産期医療の質を維持し向上させます。

成人の病気では、画像診断や診断手段などの進歩の結果、すでに基礎疾患は分かっていることが多いです。しかし、周産期の病気は、成人ほど画像診断や診断検査が進んでいないこともあり、突然予期せずに発生することがあります。当センターの解剖依頼の項目をみますと、原因不明の子宮内胎児死亡や原因不明の早期新生児死亡(生後7日までの新生児死亡)がよく挙げられています。当科の病理解剖の結果では、前者の60%近くが、後者ではほとんどの死因が判明しています。このような結果を産科医や新生児科医が再確認することができれば、将来、同じような症例の診断や管理に生かすことができます。そして、このような情報の集積によって、周産期医療がさらに発展することになります。

3.周産期死亡を解明することにより、疫学調査(死亡原因と考えられる病気の要因と発生の関連性について、統計的に調査すること)に貢献します。

「乳幼児死亡率の増加が国を滅ぼす」ということから、ソ連の崩壊を予言した統計学者がいます。周産期死亡率も、その地域の社会経済や健康管理のあり方が影響していることは明らかであり、それぞれの病気の予防対策の指標にもなります。このような基礎資料の背景には、確実で適正な病理解剖が行われているか否かが重要になってきます。

胎盤について

周産期病理を考えるにあたって、胎児や新生児ともに胎盤も重要な臓器です。胎盤は、受精卵の着床と同時に発育が始まり、妊娠4か月までにその原形が完成し、胎児とともに分娩まで発育します。胎盤は、胎児と臍帯(さいたい)(へその緒)でつながっており(図2a)、母からの血液が充満した空間の中に、漬かっています(図2b)。その様子はさながら木が土中に細かい根をはった状態に似ています。胎盤で、胎児の発育のために必要な呼吸および栄養代謝、吸収、排泄、蛋白合成、ホルモンや酵素産生などが行われています。さらに、出産時に胎盤がはがれるときにも、胎盤から血液を固める因子(凝固因子)が放出され、子宮の出血を止める役目をしています。つまり胎盤は、妊娠中の約280日間、胎児と母親との間を強く結びつけている重要な臓器です。お腹(なか)の中から文字通り「母子のきずな」は結ばれており、昔の風習で「数え」で子どもの年を考えるのも理にかなっているように思います。

胎盤は、母児ともに負担をかけず調べることができる唯一の臓器なので、絨毛膜羊膜炎や胎盤早期剥離(はくり)など、何らかの異常が疑われるときは必ず検査しておくべきでしょう。胎盤を調べることによって病気が判明することがあるからです。

小児病理・小児がん

小児病理では、小児期にみられる病気を扱い、その疾患は多岐にわたります。速やかに診断し、治療に直結するという点で、小児がんの病理診断は小児病理の大きな柱の1つとなります。

小児がんの代表的なものに、胎児性腫瘍(しゅよう)と総称される神経芽腫(がしゅ)、腎芽腫、肝芽腫などがあります。この「芽腫」というのは、お腹の中の赤ちゃんの体でさまざまな臓器が作られていく芽の段階と似ていることから、このような名前になっています。ほとんどは、10歳くらいまでにみられ、成人ではめったにみられません。

たとえば「図3a」に示す腎芽腫の組織像をみてみましょう。このがんは、種のような小さな細胞集団が塊(かたまり)となって増えている中で、一部に管(くだ)のような構造(後に腎臓になる芽)を作ろうとする様子がうかがえます。これは、「図3b」に示した胎児の腎臓ができる段階の像とよく似ています。

写真
図3 a:腎芽腫 b:胎生12週の胎児の腎臓

小児がん研究を推し進める全国的な連携

小児がんでも、病理の対象となる病気は多種あるのに対して個々の数が少ないため、1つの施設で経験する症例が非常に限られています。当センターは、全国でも有数の小児専門病院の1つですが、年間に診断する小児がんはわずか30例程度です。小児病院以外になると、その数はさらに少なくなります。そこで現在、臨床医と協同して日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group/JCCG)が組織されています。これは、小児がんの診断や治療を標準化するとともに、さらに研究を進め診療に活かしていくことを目的としています。JCCGの病理診断委員会では、全国の小児病理医が協力して、病理診断の精度を上げるとともに、数少ない症例を共有するシステムを作っています。当科の病理医も参加し、多数の小児病理医と連携して、子どもたちの治療のために正しい診断を早くできるようにしています。

更新:2024.01.26