口唇裂・口蓋裂のお話

大阪母子医療センター

口腔外科

大阪府和泉市室堂町

口唇裂・口蓋裂はくちびると上あごのつながり忘れです

皆さんは「口唇裂(こうしんれつ)・口蓋裂(こうがいれつ)」と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。病名に「裂」という字が入っているので、もとある形が分かれてしまったというようなイメージを持つかもしれません。しかし本当のところは、そうではありません。実は、お母さんのお腹(なか)の中にいるときは誰でも、くちびるや上あごに隙間があり、分かれていたのです。成長とともに隙間がなくなり、くちびるや上あごの形になります。このとき何かの拍子に、生まれるときまでその隙間が残ると、口唇裂・口蓋裂といわれる状態になります。お母さんのお腹の中では誰でも、口唇裂・口蓋裂の状態から成長していくということができるのです。

お母さんのお腹の中での顔と上あごの成長

お母さんのお腹の中(胎児期)で、顔と上あごがどのように成長していくかを「図1」に表しています。胎生6週の顔を見ると、鼻の穴の下に溝があるのが分かります(矢印の先です)。この溝はもともと誰にでもある隙間で、成長とともに埋まります。しかし、この隙間は生まれるまでにつながり忘れることが多く、その場合に口唇裂になります。また、胎生7週の上あごを見ると、真ん中に大きな隙間があることが分かります。隙間の下の方には、のどちんこ(口蓋垂(こうがいすい))が左右に1つずつぶらさがっています。これが最初の上あごの形なのです。そしてこの上あごの形は、口蓋裂の形と同じなのです。この隙間が生まれるまで残ると口蓋裂になります。

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図1 胎児期の顔を上あごの成長過程

つながり忘れ(裂)があったときの顔と上あごの形

このつながり忘れのことを医学的には「裂」といいます。つながり忘れがどの部分にあるかによって、病名が決まります(図2)。例えば上くちびるにつながり忘れがある場合は口唇裂、上あごにつながり忘れがある場合は口蓋裂、上くちびると歯茎につながり忘れがある場合は唇顎裂(しんがくれつ)、上くちびるから歯茎を通って上あごと口蓋垂の先端までつながり忘れがある場合は唇顎口蓋裂といいます。上くちびると歯茎のつながり忘れには、両側の場合と片側の場合があり、また鼻の穴までつながり忘れている場合(完全裂)と、つながり忘れが途中までの場合(不完全裂)があります。

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図2 つながり忘れた例

つながり忘れた隙間を順番につなげます

このように、口唇裂・口蓋裂はもとの形が残ったものです。もしかすると、初めて口唇裂・口蓋裂の形を見ると少し驚くかもしれませんが、それは単に見慣れていないせいです。誰もが成長の途中で通る形ですので、全く正常な形ということができます。また、体の部分はちゃんと揃っているので、その部分を良い時期に良い手術でつなげていくと、きれいに治すことができるのです。

つなげる方法やその考え方はとても専門的な話になるので、細かくは話しませんが、口唇裂の場合は生後3〜6か月で手術をすることが多いです。私たちは小三角弁法という手術法を基本にして、その上に長年にわたるたくさんの工夫を積み重ねています(図3)。この工夫によって、できるだけ分からないようにつなげます。「図4」の手術前後の写真をご覧ください。

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図3 時期をずらして行う手術の工夫
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図4 手術前後の例

「審美性(見た目)」「発音」「顔とあごの成長」が口唇裂・口蓋裂治療の3本柱です。

口唇裂・口蓋裂の治療を考えるときに、どうしても表向きの見た目に目を奪われがちですが、それと同じくらい大切なのが発音と顔の成長です。どちらも口蓋裂がある場合は特に重要です。というのは、上あごから口蓋垂までの部分(正確にいうと上あごと軟口蓋(なんこうがい)の部分)のつながり忘れをどう治療していくかによって、その後の発音、上あごの骨格の成長が変わってくるからです。その点についても、私たちはたくさんの工夫を重ねて、上あごがしっかりと成長できるようにしています。

手術が終わった後の発音は言語聴覚士が、顔とあごの成長については矯正歯科医が、それぞれエキスパートとして、患者さんが小さいときから診ていきます。私たち口腔(こうくう)外科医による手術と、言語聴覚士によることばの指導、矯正歯科医による顔の成長と歯並びに対する治療、これらはどれも欠くことのできない大切な治療です。

「発音」と「あごの成長」を考えた手術

はっきりとした発音ができるようになるためには、軟口蓋(口蓋垂を含む上あごの後ろの部分)の手術をして、軟口蓋がしっかりと動くことができるようにしなければなりません。しかし、骨のある上あごに対する手術をあまり年令の小さいときに行うと、骨格の成長を小さくしてしまいます。上あごが小さくなると、下あごが前に出る噛(か)み合わせ(反対咬合(はんたいこうごう))になりやすくなります。私たちは、軟口蓋と上あごの手術を別々の時期に行うことによって、上あごがしっかりと成長できるような工夫をしています(図3)。軟口蓋の手術は1歳前後に行い、上あごの手術はおよそ1歳半で行います。上あごの手術を半年間遅らせることで、その後の上あごの成長が随分と良くなります。ファーラー法(Furlow法)という手術法を取り入れているのも、上あごの成長に対する工夫の1つです。

ことばの指導と矯正歯科治療

上あごと軟口蓋の手術をした後は、言語聴覚士がことばの指導を行います。しかし、全員に発音の練習が必要なわけではなく、ことばの成長を見守るだけでいいお子さんもたくさんいます。発音の練習を行う場合は、4歳頃から行うことが多いです。小学校に入るまでに良い発音を覚えることが目標です。その後、思春期までお子さんのことばの成長を見守っていきます。

また矯正歯科治療については、まず5歳頃に顔とあごの成長や噛み合わせの状態を分析します。この分析によって、上あごの骨格の成長や上あごの歯並びの幅が小さいことが分かった場合には、乳歯のときから矯正歯科治療を始めます。次に、乳歯から永久歯に生えかわるまでの期間は、あごの成長をコントロールしたり、永久歯が生えかわる隙間を調整したりすることが中心になります。歯茎のつながり忘れ(顎裂)のところに骨を入れる手術を行うのもこの時期になります。最終的には永久歯の歯並びを整えますが、これはもっと大きくなってから(13歳前後から)始めます。何歳からどのくらいの期間で矯正歯科治療を行うかは、それぞれの患者さんの歯並びや噛み合わせの状態、あごの成長の様子によって変わってきますので、定期的に検査を行い、治療計画を立てていきます。

チーム医療がとても大切です

「チーム医療」というのは、さまざまな治療の専門家が集まって、十分なコミュニケーションをとりながら、治療を進めていくことをいいます。最近では、さまざまな病気の治療に「チーム医療」が大切だといわれているので、このことばを耳にした方も多いと思います。高度な専門化が進む現代では、医学のレベルはどんどん高くなっているのですが、医療の現場では専門家同士のコミュニケーションが十分にとれていないと、むしろ医療の質は低くなります。

当科は、およそ30年前から口唇裂・口蓋裂の総合治療を専門としてきました。口唇裂・口蓋裂治療のために設立された診療科なので、言語聴覚士、矯正歯科医、口腔外科医そして歯科衛生士が同じ診療室で協働し、とても明るくオープンな空気の中で診療を行っています。患者さんに疑問や困ったことがあれば、その場にスタッフが集まって話し合い、問題を解決することができます。このようにスタッフ同士が密接に連携して治療を進めていることが私たちの大きな特色です。

お子さんと家族の笑顔のために

いままで述べましたように、口唇裂・口蓋裂はもともとだれでも持っていた形であったことに加えて、良いタイミングで良い治療を行っていけば、きれいにつながります。お子さんが大きくなったときに口唇裂・口蓋裂のことをしっかりと理解した上で、でも「全然気にならない」と言ってもらえるように精一杯の治療を行っていきたいと考えています。

更新:2024.01.26