性分化疾患: DSD(Disorders of Sex Development)に対するチーム医療

大阪母子医療センター

泌尿器科 消化器・内分泌科

大阪府和泉市室堂町

性分化疾患ってどんな病気?

多くの皆さんにとって「性分化」とは、あまり聞きなれない言葉だと思いますが、この場合の「性」は男女の性別を、「分化」は生まれる前の身体の成り立ち、発達の過程を示します。例えば、生まれつき心臓が普通と異なる赤ちゃんは先天性心疾患に分類されるように、性別に関する身体的な特徴が典型的でない場合は、性分化疾患と呼ばれます。性分化疾患の頻度(ひんど)は、4500人に1人程度といわれており、決して稀(まれ)なわけではありません。通常、赤ちゃんが生まれると、性別は外性器の形から判断されますが、性分化疾患では見た目では男女の判別が難しい場合があります。

性別の判定が困難な外性器とは?

①おちんちんがあるように見えるけれど、曲がってずんぐりとしている、②男の赤ちゃんは包茎で生まれるのに、包皮がむけていたりして、よく見るとおしっこの出口が先端にない、③陰嚢(いんのう)も小さくてしわが少なく、中身(睾丸(こうがん)=精巣)も見あたらない、④女の子なのにクリトリスが大きくて、割れ目が浅く、膣口(ちつこう)がはっきりしない、全体が黒ずんでいる。このような外性器は、ambiguous genitaliaと呼ばれ、男の子とも女の子とも見た目では簡単に識別することができません(図)。ぱっと見た印象で早合点せず、慎重に対応することが重要です。

写真
図 ambiguous genitalia

判定が困難な外性器だったらどうするの?

性別の判定は、お子さんの一生を左右する重大事です。性分化疾患の多くは生命にかかわるような危険はありませんが、性別を判定し確定することは社会的に急を要するため、判定が難しい場合は、新生児の救急疾患として慎重に対処するべきです。

的確な診断には、検査と多くの専門家の知識や技術を要します。男女の成り立ちには、染色体(遺伝診療科)や性腺(小児内分泌科、小児泌尿器科)が重要な役割を持ち、その結果、内性器(放射線科、小児泌尿器科)や外性器(小児泌尿器科)が形成されていくため、それぞれがどのような状態であるかを調べる必要があります。性ホルモンの働きや、将来子どもを持てるかどうかといった妊孕性(にんようせい)の問題(小児内分泌科、泌尿器科、婦人科)も性別の判定には大きな要因となります。

※( )の中は担当の科を示しています。

当センターでは、全国に先駆けて1991年に関連各科から成る専門チームによる性別判定会議を立ち上げました。院内出生に加えて性別判定の必要な赤ちゃんの搬送も積極的に受け入れています。上記のような多くの診療科に加えて看護師や臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなど多職種が連携し、包括的な診断、治療、支援を継続する体制を整えています。

出生届は性別と名前を書き入れて戸籍法(第49条)により、生後2週間以内に提出するのが原則ですが、理由を届け出ることで延期できます。当センターでも、子どもに戸籍がないと医療費の補助が受けられないなどといった誤解から、慌てて診断を待たずに戸籍を提出された例もありますが、一度提出した戸籍は変更しても記録が残り、将来、何かの折に本人の目に触れる可能性があります。当センターでは、医療ソーシャルワーカーがチームの一員として従事しており、事務的な支援を行っています。

必要な検査の進め方

性分化疾患の原因の特定を進める際は、①それが男性化の過程で障害を受けたものか、②女性化の過程で過剰な男性化を受けたもの(男性化女性)か、③もしくはその他、の3通りに大別すると理解が容易です。外陰部所見のみで原疾患を特定することは不可能ですが、著明な色素沈着がみられる場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の上昇を示し、男性化女性の代表疾患である先天性副腎皮質過形成(CAH)を疑います。また、正常男児に比べて陰茎や陰嚢の発育が著しく未熟な症例では、なんらかのアンドロゲン(男性ホルモン)合成障害や作用異常の関与がうかがえます。

染色体検査

Y染色体の同定はFISH法で1〜2日のうちに結果が得られますが、詳細なG-band法を行うには24時間以上の培養と標本作製に時間がかかるため、設備の整った実験室を有する施設でも結果を得るまで数日を要します。

性腺の診断

最初に入念な触診にて性腺(通常男児なら精巣、女児なら卵巣)を確認します。一側でも正常な精巣が確認できればCAHに代表される男性化女性は除外されます。しかしながら、性腺の触診は熟練を要し、触知可能であっても硬さや形態に異常があれば形成不全精巣や卵精巣の可能性があり、生検が必要です。また、一側がいかに正常と思われる精巣であっても、もう片方が不明な場合は、混合型性腺形成不全(MGD)などの可能性があり、安易に男児の診断を下してはなりません。

内性器の検索

女性内性器(子宮と膣の奥半分)の検索には、超音波検査や尿生殖洞造影、MRIなどの画像診断が有効ですが、尿道と膣の分岐部の位置(尿生殖洞の長さ)を同定し、男性化の重症度分類を確実に行うには内視鏡検査が必要です。同時に子宮口の有無や膣の大きさを観察して、女性内性器の状態を確認します。また、悪性化の危険を考慮して、性腺の位置と性状の確認(生検)は性別を決める前に行うようにします。性腺の生検は開腹で行われる場合もありますが、最近では腹腔鏡が頻用され、内性器の観察を兼ねて非常に有用です。

内分泌学的検査

性腺機能検査として、正常の男児では生後2〜3か月の乳児期早期には性腺刺激ホルモンの1つであるLHや、男性ホルモンの一時的な上昇がみられるため、これらの基礎値を測定することによって精巣機能の有無を知ることができます。そのほかの年齢では、HCG(性腺刺激ホルモン)負荷試験が有用です。HCG負荷試験では、テストステロン(主な男性ホルモン)産生能のほかにテストステロンと5α-ダイハイドロテストステロン(DHT)比を測定し、5α-リダクターゼ欠損症などのテストステロン代謝異常の検索を行います。また、ミュラー管(女性内性器の基)抑制因子を測定することにより、胎児期以降の機能的精巣の有無を推測できます。なお、5α-DHTとミュラー管抑制因子の測定は保険適用外で、検査会社で測定してもらえます。

性別の判定

性別の判定には、主に内外性器の男性化の度合いや、テストステロン作用障害の程度、子宮・膣などの有無、妊孕性が重要視されます。手術の難易度は慎重に考慮されるべきです。男性化の一般的な目安として陰茎の長さが用いられますが、新生児期に陰茎長が20㎜以下で、アンドロゲンレセプター異常症などが原因でテストステロンに対する反応が不良な場合は、男児として満足な外性器を得ることは難しいとされています。

また、女性化外陰部形成術は男性化手術に比べて容易であるとの誤った認識を持っている医師や医療スタッフもいまだ少なくありませんが、ミュラー管由来臓器の発育が不良な症例では機能的膣の形成は非常に困難であり、「女児」ではなく「女性」としての長期的視野でQOL(生活の質)を考えた場合、安易な選択をしてはいけません。近年、「脳の男性化」が注目されていますが、定量することは難しく、性別の判定においてどのくらい重用視すべきかについては、今のところ分かっていません。

性分化疾患の治療と自立までのサポート

各々の性別に応じた外陰部形成術が考慮されます。また、養育性に矛盾する性腺や、悪性化が危ぶまれる性腺に対しては摘除術が行われます。これらの手術は、養育者の精神的ストレスの軽減と社会的状況を鑑み、多くの場合乳幼児期に行われてきました。しかしながら、性分化疾患に対する外科的治療、特に女性化手術は不可逆性であることが多く、手術の時期、適応については議論が絶えません。最近では、侵襲的(しんしゅうてき)な手術は本人が希望するまでは行わず、性別の判定も本人が自ら希望をはっきりと表現できるときまで先送りにするよう勧める意見もあります。

性分化疾患に対して、寛容とは言い難い社会であるわが国においては、養育者のストレスや思春期への対応など、精神面でのサポートも重要です。窓口となる専門看護師の育成やセクシャリテイ支援の充実が大きな課題であり、多職種が連携し、チームで診療にあたる体制作りが急がれます。全国的にみても、性分化疾患に対してチーム医療で取り組むことができる施設は限られており、当センターは診断から治療、お子さんの成育に合わせた自立のサポートができる数少ない施設の1つです。

更新:2024.01.26