小児気道疾患の診断と治療 ─ 非挿管での気道検査と手術
大阪母子医療センター
耳鼻咽喉科 麻酔科
大阪府和泉市室堂町
小児はもともと体が小さいため、空気の通り道(気道)が狭く、大人に比べて気道狭窄(きょうさく)症状が出やすい特徴があります。気道狭窄があると呼吸時に音がしますが、その音を喘鳴(ぜんめい)といいます。喘鳴の原因は小児特有で、検査・治療に特殊な方法が必要となるため、小児気道疾患は小児耳鼻科の重要な領域となっています。
小児に対する気道検査
鼻から吸った空気はのど、気管を経由して肺に入ります。その経路を気道といいます。気道は、鼻からファイバースコープを挿入して検査します。大人であれば、局所麻酔で検査できますが、小児ではどうしてものどに力が入り、普段の状態を評価できませんので、必要に応じて全身麻酔下に検査を行います。
のどは咽頭と喉頭(こうとう)に分かれます。咽頭は鼻と食道の間で口腔の後ろ、喉頭は咽頭の前の気管につながる部位です(図1)。
通常であれば全身麻酔には気管内挿管チューブを使用しますが、当センターでは、麻酔科協力の下、チューブを使用せずに最適なレベルの麻酔をかけながら自然な呼吸状態で気道を観察しています。チューブを使用しないことで、小児の狭いのどを隅々まで観察することができます。詳細な観察が必要な場合は、喉頭鏡(こうとうきょう)という金属の筒をのどに挿入し、硬性鏡という棒状のレンズで観察します。喉頭鏡を挿入すると、喉頭を観察しながら患部を直接触ったり、手術を行ったりすることが可能になります。
喘鳴の原因
声帯より上の上気道の狭窄では、息を吸う吸気時に音が(吸気性喘鳴)、声帯より奥の下気道では、息をはく呼気時に音が出ます(呼気性喘鳴)。両者の境目である声帯近くで音が発生する場合は、吸気時と呼気時の両方(二相性)に出ることがあります。小児の喘鳴の原因として、喉頭軟化症(喉頭軟弱症)、両側の声帯麻痺(吸気時には両側の声帯がしっかり開かないと狭窄音が生じます)、声門下血管腫、声門下狭窄、舌根沈下などがあります。
喉頭軟化症(喉頭軟弱症)
小児の喘鳴の原因の第1位で、喉頭の構造物が柔らかすぎたり、余分にあったりすることで、吸気時に気道が狭くなってしまう病気です。病変部位により3つに分類されています。生後1か月ころに症状が出て、一旦悪化し、1-2歳頃で自然と治ることがほとんどですが、中には哺乳不良や体重増加不良だけでなく、気道にチューブを入れたり、特殊なマスクを使用したりして呼吸管理をしなければならない重症例もあり、その場合は手術の適応となります。
喉頭軟化症は、喉頭蓋(がい)型、披裂(ひれつ)喉頭蓋ヒダ型、披裂部型の3つの型に分けられます(図3上段)。喉頭蓋が吸気時に気管の入り口である声門に覆いかぶさってしまうのが喉頭蓋型です。披裂喉頭蓋ヒダ型では、喉頭蓋と背中側にある披裂部をつなぐ披裂喉頭蓋ヒダが短くなり、喉頭蓋がオメガ(Ω)型になって声門が細長くなり、吸気時に狭い状態になります。披裂部型は、披裂部の粘膜が余った状態で、これが吸気時に声門方向に引き込まれます。
喉頭軟化症の治療――声門上形成術
気道検査と同様に、挿管チューブを使わずに麻酔をかけ、自然な呼吸を残しながら、手術の苦痛を感じない状態を維持した状態で手術を行います。当センターでは、麻酔科医とのコミュニケーションを密に取りながら、安全に行っています。
喉頭鏡という金属の筒をのどに挿入し、顕微鏡や硬性鏡で観察し、レーザーを用います。
喉頭蓋型に対しては、喉頭蓋の前側を焼灼し、瘢痕収縮によって後ろ側に倒れないようにします。披裂喉頭蓋ヒダ型に対しては披裂喉頭蓋ヒダを切離します。披裂部型に対しては披裂部の余剰粘膜をレーザーで焼灼します(図3下段)。術後は念のためICU(集中治療室)で経過観察し、経過が良ければ約1週間で退院が可能です。当センターは、声門上形成術を行っている国内で数少ない施設のひとつで、もともと合併症のない症例では早期に気道のチューブや特殊なマスクによる呼吸管理が不要となるなど、大変良い治療成績となっています。
更新:2024.10.04