妊娠期の感染症対策―オウム病をご存知ですか

大阪母子医療センター

研究所免疫部門

大阪府和泉市室堂町

免疫部門では、流産・早産や不育症の原因、通常の検査では見つけることの難しい妊婦さんや新生児の感染症の原因となる微生物を明らかにし、診断や治療に役立てています。
国内では年間40~50例の妊産婦死亡が発生しており、そのなかで感染症による死亡は年間3〜4例です。ちなみに1950年には、年間4100 人ほどの妊産婦死亡がありました。感染症には、人から人にうつる感染症のほか、動物から人にうつる動物由来感染症(鳥インフルエンザ、 日本脳炎、重症熱性血小板減少症候群、腸管出血性大腸菌など)があります。
私たちの研究室では、国内で死亡した妊婦さんの胎盤から動物由来感染症のオウム病病原体を同定しました。国内で妊婦さんにオウム病が発症したのは初めてでした。厚生労働省は全国の周産期医療施設に、 私たちは日本産婦人科医会を通じて全国の産婦人科医師に対して妊娠期のオウム病の症状や、治療方法に関する情報を伝えました。
オウム病は細胞内に寄生するクラミジア科細菌(C. psittaci )による稀(まれ)な動物由来感染症で、鳥類や、比較的大型の哺乳類(羊の流産など)からも人に感染します。多種類の野生鳥(ハトなど)や、ペット(オウム、 インコなど)からオウム病病原体がみつかっていますが、ペットショッ プの鳥からみつかる頻度(ひんど)は減少しています。人は感染鳥の糞(ふん)などに含まれる病原体を吸い込むことによって感染します。感染後1~2週間ほどの症状のない時期を経て、急な高熱、頭痛、全身のだるさや、肺炎などを引き起こします。症状はインフルエンザに似ていますが、処置や治療が異なります。ペットの飼育状況や、動物との接触歴があれば必ず医師に伝えてください。妊婦さんは胎児を育てるために免疫力を低下させています。肺炎の症状がなく急激に悪化することもあります。 オウム病病原体を世の中から排除することは難しいのですが、皆さんに正確な情報を届けることによって、より安心で安全な妊娠期を送っていただけるよう、そして感染症による妊婦さんや赤ちゃんの死亡を極力減らせるよう願って活動しています。

更新:2022.09.01