もやもや病

大阪母子医療センター

脳神経外科

大阪府和泉市室堂町

もやもや病は、どんな病気ですか?

もやもや病では、脳の底部にある内頸(ないけい)動脈(大脳系に血液を送る血管)が前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる部分を中心に細くなり始め、ゆっくり閉塞(へいそく)していきます。狭窄(きょうさく)・閉塞は、末梢(まっしょう)や中枢側の動脈に進展するとともに、もやもやとした異常血管が出現します。このもやもや血管が病名の由来です。左右の大脳とも侵されることが多く、原因は不明です。もやもや病は特発性ウイリス動脈輪閉塞症とも呼ばれたこともありますが、今では、世界的にも、Moyamoya diseaseとして統一されています。脳腫瘍(のうしゅよう)・ダウン症・神経線維腫症・放射線治療後・感染症後などに同様の所見を示す、類(るい)もやもや病があり、もやもや病と同じように扱われます。

日本人をはじめとする東アジア人に多く、国内の発生率は、人口100万人当たり年間3〜5人といわれています。2017度の登録患者数は、およそ1万6000人です。4歳をピークとする幼児の発症では、脳虚血(のうきょけつ)をきたし、30歳代が多い成人発症は、脳出血を起こします。男女比は、1対1・8と女性に多く、もやもや病を発症した人の10〜15%程度の家族発生(親や兄弟姉妹、いとこなどにも発生する可能性があること)がみられます。

RNF213遺伝子が、もやもや病の発病に関係する遺伝子であることが確認されていますが、この遺伝子だけでは発症せず、二次的な要因が発症に関係するようです。

もやもや病による脳動脈の狭窄・閉塞は、自然に軽快することはなく、進行性で、症状は悪化していきます。重症度は年齢が小さい子どもほど重く、早期の治療が必要になります。

もやもや病では、どんな症状が出ますか?

初回発作は、年齢によって異なります。現在では、おおまかに「出血型」「てんかん型」「脳梗塞型(のうこうそくがた)」「一過性虚血発作型」「頭痛型」に分けられます。

小児では、運動、大泣き、リコーダー(縦笛)やハーモニカ演奏、熱いものを冷ます(ラーメンやみそ汁)、風船やシャボン玉を膨らませるなどの過換気により、片麻痺(へんまひ)・感覚障害・しびれ感・けいれん・頭痛などが発作的に現れ、繰り返すこともあります。症状は、一側性のことも両側性のこともあります。

もやもや病では、どんな検査を行いますか?

診断には、脳血管撮影(図)が必須ですが、小児では、全身麻酔が必要なことや特に乳幼児に対する脳血管撮影の危険性を考えて、MRA(磁気共鳴血管撮影)で代用することがほとんどです。

写真
図 脳血管造影像:(A)もやもや病。脳基底部にもやもや血管(矢印)があり、前大脳動脈や中大脳動脈が狭窄しています(矢頭)。(B)正常像。内頸動脈は、分岐部(星印)で前大脳動脈(矢頭)と中大脳動脈(矢印)に分かれます

そのほかMRI(磁気共鳴画像)による脳組織の評価、脳血流シンチグラフィー(脳の血流を評価する検査)、3D-CTによる血管造影を行い、血行再建のときにつなぐ相手の血管の分析なども必要です。

もやもや病には、どんな治療がありますか?

この病気の主な病変部位は内頸動脈系であり、頸部で分かれて頭皮に血管を送る血管である外頸動脈系はこの病気に侵されないこと、もやもや病の脳組織では外頸動脈系からの血管新生が盛んに起こることが発見され、外頸動脈系を用いたいくつかの血行再建術が行われます(表)。

表
表 もやもや病の治療法とそれらの長所と短所

浅側頭(せんそくとう)動脈は、通常、前頭枝と頭頂枝に分かれます。開頭し、それぞれの枝を脳表の中大脳動脈の細い枝に直接吻合(ふんごう)する(つなぐ)方法を浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術といい、これが直接血行再建術です。一方、それぞれの枝を用いる間接血行再建術(EDAS)や、その枝を含む帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)(頭皮下の膜)、筋肉などを脳表に移植し、脳への新生血管を誘導する間接血行再建術があります。成人では、直接血行再建術が一般的ですが、小児(特に乳幼児)では、中大脳動脈が細く技術的に困難を伴うため、間接血行再建術を選択することが多いようです。偶然みつかった症状のない例を含め、小児では、長期的な知能の発達なども考慮して、早い時期に積極的に治療すべきと考えています。

小児では、手術前後の問題点として、脳虚血・脳梗塞の増悪、出血、皮下髄液漏(ずいえきろう)、創部癒合不全(そうぶゆごうふぜん)などが挙げられます。輸血を避けるため、手術を複数回に分けるようにしています。

当科では、まず間接血行再建術を行うようにしています。

もやもや病の治療後に、再び症状が出たときはどうしますか?

これらの血行再建術を行うと、数週間後には症状が改善します。もやもや病自体が進行し、脳血流が低下しても、外頸動脈系からの血流が増加し、症状は出にくくなります。もし症状が出た場合は、帽状腱膜移植などを追加して行います。また、後大脳動脈系にまで病変が進行すると、後頭動脈を使った血行再建術も行います。

術後の注意点としては、小児を激しく泣かせないよう指導し、脱水や熱中症をきたさないことも重要です。夏場はエアコンを使用し、猛暑のときは、不要不急の外出を控えます。もし症状が続くようなら、点滴をした上で、血行状態の再評価が必要です。

血行の再建がうまくいくと、無症状で経過し、比較的良好な経過を示します。時間がたてば、運動もできるようになります。乳児期や幼児期早期に発症した場合は、発達が遅れたり、脳梗塞の発生などの問題が出ることが多いようです。MRAにより血管の変化をみると、半年で進行していることもあるため、術後しばらくは、厳重に経過をみる必要があります。

更新:2024.01.26