斜視と内反症

大阪母子医療センター

眼科

大阪府和泉市室堂町

子どもの眼疾患で最も多い斜視(しゃし)と内反症(ないはんしょう)について説明します。斜視とはどちらかの眼が正面を向いていない状態のことで、「やぶにらみ」「ひんがらめ」と呼ばれることがあります。内反症は睫毛(まつげ)が内向きに生えるために眼にあたって痛くなったり、角膜に障害を生じて視力を低下させたりしてしまう異常です。

斜視について

子どもの視力発達と斜視の関係

正常な視力は1・0です。正視(正常な視力を持つ眼)であれば裸眼で視標(視力検査で使用する文字や形)が見えますが、近視や遠視、乱視の場合は眼鏡かコンタクトレンズを装用して1・0の視標が見えれば正常です。この正常視力は生まれたときから備わっているのではなく、身長が伸びるのと同じように、生後から3歳の間に徐々に発達して1・0の視力に達します(図1)。

グラフ
図1 視力の発達曲線

この発達の期間に眼に異常や病気が生じると、視力の成長は止まってしまいます。このような視力の成長発達障害を、医学的に弱視(amblyopia)と呼びます。ただし、日本語で弱視という場合は、重い視覚障害の中でも、盲(もう)(眼が見えないこと)よりは障害の程度が軽いものも含まれますので注意が必要です。

弱視の原因を「表」に挙げました。斜視では、正面を向いていない方の眼が視力障害をきたします。先天白内障はまれな疾患ですが、水晶体が先天的に白濁した異常であり、放置するとたいへん重い視力障害をきたします。不同視弱視は右眼と左眼の屈折度数に差があり、片眼は遠視で他眼が近視の場合や、両眼が同じ遠視でも屈折度数が強い眼と弱い眼がある場合に発生します。屈折異常弱視は、強度の遠視や乱視がある場合に生じます。

表
表 弱視の原因

斜視の種類

内斜視は片眼の視線が内側を向いている状態、外斜視は外側を向いている状態、下斜筋過動症は視線が斜めにずれる場合です(図2)。これらの代表的な斜視のほかにも、複雑な多くの斜視が存在します。

写真
図2 いろいろな斜視のタイプ 左:外斜視、中央:内斜視、右:下斜筋過動症

斜視の原因

内斜視や外斜視では、中枢の眼位・眼球運動を操る部位の機能異常と考えられています。極めてデリケートな機能の異常ですので、CTやMRIでは病変部は映し出されません。内斜視では遠視が原因になっていることも少なくありませんが、この場合には眼鏡を装用するだけで斜視は消えてしまいます。下斜筋過動症やそのほかの斜視では、眼球の筋肉自体のわずかな形成異常が原因と考えられます。

また、斜視の中には、ほかの眼の疾患や脳の疾患が原因になっていることがありますので、注意しなくてはなりません。

斜視の問題点

1つには、視線のずれている方の眼が弱視となり、眼鏡を装用しても視力が出なくなってしまうことがあります。

2つ目は、見かけの問題です。これはコンプレックスにつながり、QOL(Quality of Life/生活の質)に悪い影響を及ぼします。斜視の中でも程度はさまざまで、非常に目立つ場合からほとんど目立たない場合までいろいろありますが、目立つときはコンプレックスが潜在してしまうことが考えられます。

3つ目は両眼視機能の異常です。私たちは両眼で見ていますが、片眼を閉じると微妙に見え方が変わります。つまり、片眼で見た場合には遠近感や立体感が少し分かり難くなり、両眼を開けて見たときの方が明瞭に立体的に見えます。両眼視機能は普段の生活ではあまり問題になりませんが、非常に精密な作業をする場合には影響が出てきます。

斜視の治療

斜視の種類によって治療方法は異なります。内斜視では眼鏡の装用で斜視が消える場合も少なくありません。眼鏡で治らない場合は手術を行うことになります。外斜視やそのほかの斜視では手術が必要です。手術では眼の位置のずれ方に応じて眼球の筋肉を移動させますが、その移動量は非常にデリケートな技術が必要です。1回の手術で治ることも多いですが、難しいケースでは手術回数が増えることもあります。

斜視の治療時期

できるだけ早い時期に眼位を矯正することができれば、視力も見かけも両眼視機能も早く正常化しますが、技術的な限界があります。眼位の矯正の手術では正確に眼位を測定することが前提になります。目分量での手術では、再手術が増えるだけになります。一方、両眼視機能は2〜3歳までに正常化させる必要がありますので、術前検査の正確さと視機能の発達期間とを考慮して手術時期が決定されます。通常、内斜視の手術は1〜2歳で行われることが多く、そのほかの斜視では正確な検査ができ次第行われます。斜視を治療しないまま長期間放置すると、斜視で見ることに体が順応してしまい、手術で眼位を矯正することができなくなります。小学校入学までの時期が治療に適しています。斜視を指摘されれば、できるだけ早い時期に専門医の診察を受ける必要があります。

内反症について

内反症とは

まぶたの鼻側の贅皮(ぜいひ)(余分な皮膚)により睫毛が角膜側に押されて、角膜や結膜に接触する状態です(図3)。角膜の障害により、なみだ目、まぶしさ、目やになどの症状を伴います。年齢とともに自然治癒する傾向がありますが、症状が重いときは手術の対象になります。

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図3 内反症

内反症の治療

軽度の場合は、角膜障害に対して点眼で経過観察します。症状が重い場合は手術を行います。手術方法としては、皮膚切開法(Hotz法)という贅皮の部分を短冊状に切除して縫合する方法と、通糸法という眼瞼(がんけん)に糸をかけてまぶたを外向きにさせる方法が主なものです。皮膚切除法は確実に効きますが、切除量が多すぎると目つきが変わるので、注意が必要です。

更新:2024.01.26