小児がんについてー小児がん拠点病院としての役割(チーム医療)
大阪母子医療センター
血液・腫瘍科 小児外科 脳神経外科 患者支援センター
大阪府和泉市室堂町
はじめに
子どもに発生するがんの種類は成人がんと大きく異なり、その発生数は全国で年間2000〜2500人、大阪府で年間約150人です。すなわち、子どものがんは稀(まれ)ながん(稀少(きしょう)がん)なのです。
子どものがん(小児がん)とは
小児がんの約半数(40〜50%)を占める白血病、脳腫瘍(のうしゅよう)はともかく、神経芽腫(しんけいがしゅ)、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、胚細胞腫瘍、肝芽腫、軟部組織腫瘍などは、病名を見ただけではどのようながんなのか把握するのが難しいかも知れません(図1)。
子どもの白血病のほとんどが急性白血病で、慢性白血病は少数です。神経芽腫は副腎や交感神経節に発生するがんです。網膜芽細胞腫は、視覚に大きな役割を果たす網膜に発生する小児がんで、乳幼児期に診断されます。ウィルムス腫瘍は腎臓に発生しますが、成人に発生する腎がんとは異なります。肝芽腫は肝臓に発生しますが、成人の肝がんとは別のものです。
成人がんは、喫煙と肺がんの関係が示されているように、生活習慣病として位置づけられる場合がありますが、小児がんの発生と生活習慣に関連性はまったくありません。
新しい抗がん剤の開発、手術法や放射線治療の進歩、骨髄(こつずい)移植に代表される造血細胞移植の導入など、この数十年間における治療法の進歩によって、がんは不治の病ではなくなりつつあります。特に小児がんにおける治療成績の向上は著しく、小児がん全体で約70%の治癒が見込めるようになりました。すなわち、適切な治療を行えば、小児がんは治せる時代になったといえます。
日本小児がん研究グループに参加
小児がんの治療成績の向上に大きな役割を果たしてきた仕組みが多施設共同研究です。
前述したように、小児がんは稀であり、診療を行うそれぞれの病院が治療する小児がんの子どもたちが少人数にとどまることから、どのような治療法が最善か、ある病院1施設だけで検討することは困難でした。そこで、複数の病院が協力し、より多くの子どもたちを同じ方針で治療することで、その成績を評価することが可能になりました。
欧米を中心に複数の研究グループが、小児がんの正確な診断法、より良い治療法を開発する研究を進めてきました。国内においても複数の研究グループがこのような役割を果たしてきましたが、2014年12月にオールジャパンの体制で取り組みを進めるべく日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group/JCCG)が設立されました。国内の小児がん治療・研究を専門とする大学病院、小児病院、総合病院の200施設以上がJCCGに参加しており、当センターも参加しています。JCCGの取り組みは始まったばかりですが、今後の成果が期待されます。
小児がんの課題
治療法の進歩によって約70%の小児がんの子どもたちが治るようになったということは、翻せば命を救えない子どもたちが約30%いるということです。小児がんの子どもたち全員を治せるように新しい治療法の開発に取り組み続けることはもちろん、積極的治療を諦めざるをえない状況にある治せない子どもたちを支える医療(緩和医療)も重要です。また、小児がん治療終了後に生じることがある、さまざまな治療関連晩期合併症への対応も重要な課題です。
1.緩和医療
抗がん剤治療、手術、放射線治療など、最大限の治療を施してもがんを治せない場合があります。そのような場合、医師、看護師だけでなくさまざまな職種が協力して、本人が子どもらしい時間を過ごせるよう、そして家族ぐるみで良い時間を過ごせるように工夫することになります。緩和医療は単に痛みを和らげる医療ではなく、患者さんと家族を全人的(身体・心理・社会的立場などあらゆる角度から)に支える医療です。
2.晩期合併症への対応
がんに対する治療が成功した後、一定期間(通常、約5年ほど)が経過すれば、ほぼ再発を心配しなくてもよくなりますが、治療による影響(治療関連晩期合併症)が発現することがあります。抗がん剤や放射線治療の影響で身長の伸びが停滞したり、二次性徴(思春期)の発現が遅れたり、不妊になることがあります。治療の内容や強さによって、その影響は一定ではありませんが、治療終了後も定期的に受診して、診察や検査を受けることが必要です。
AYA世代のがん治療
子どもと大人の狭間(はざま)にある思春期や若年成人は、Adolescent and Young Adult(AYA)世代と呼ばれています。AYA世代は、就職、恋愛、結婚など社会的な節目を迎えて自立する時期にあることから、子どもや大人と異なる配慮が必要な世代として注目されるようになりました。また、AYA世代のがんは、乳がんなどの成人がんも発生しますが、子どもに多い白血病、リンパ腫、脳腫瘍、軟部組織腫瘍の発生も少なくありません。これらのがんに対して小児科が行っている治療法を行うことで良好な治療成績が得られると報告されています。このような背景から、本来、小児科医は子どもを診療する医師ですが、AYA世代のがん診療にも関与することが求められています。
小児がん拠点病院
2012年6月8日に閣議決定したがん対策推進基本計画に、小児がんに対する具体的な施策が示されました。小児がん拠点病院を整備し、小児がんの中核的な機関の整備を開始することが明記されたのです。
1.小児がん拠点病院の認定
小児がんを診療している全国の主な施設が、小児がん拠点病院認定を受けるべく申請し、検討会で実績や診療体制などについて厳正な審査が行われた結果、2013年2月に15施設が選定され、全国7ブロックにそれぞれ小児がん拠点病院が配置されることになりました(表1)。近畿ブロックは5施設、大阪府は大阪市立総合医療センターと当センターの2施設が認定されました。
2.小児がん拠点病院の責務
厚生労働省は、小児がん拠点病院に「表2」に示すような課題に取り組むことを求めています。すなわち、複数診療科(小児科、外科、脳神経外科、放射線科など)や多職種(医師、看護師、コメディカル〈医療従事者〉など)が協力して行う集学的治療を確実に行うことはもちろん、地域における施設間協力・連携体制を充実させることや、治療終了後の長期フォローアップ外来についても言及しています。
3.近畿地方、大阪府における協力・連携体制
近畿地方の小児がん拠点病院5施設と、拠点病院以外の小児がん診療病院約30施設は、定期的に会合を開いて意見・情報交換を行っています。大阪府は、大阪市立総合医療センター、当センターが中心となって奈良県、和歌山県の小児がん診療施設と協力・連携し、阪奈和小児がん連携施設連絡会(13施設)を組織して、定期的に勉強会、会合を開催しています。
当センターにおける小児がん診療(チーム医療)
当センターは、小児がんの子ども一人ひとりの診断・病状に応じて最適な治療を行っています。小児がんに携わる組織として小児がんセンターを2014年5月に立ち上げました(図2)。小児がんセンターには多部門・多職種が参画しており、最善の小児がん医療を実践するために病院全体が一致協力して取り組んでいます。
具体的な取り組みは以下の通りです。
1.キャンサーボード(検討会)
週1回、関係する複数診療科・多職種のメンバーが集まり、小児がんの子ども一人ひとりの診断・治療方針について話し合い、チーム医療を実践しています。どの診療科・部門にも優秀なスペシャリストが配置されています。
2.難治症例、再発症例に対する治療
標準治療では治癒を目指せないような難治症例や再発症例を積極的に受け入れており、造血細胞移植をはじめとする高度先進医療を行っています。子どもを対象とする造血細胞移植の実績は全国1位です。従来型の全身放射線照射と大量化学療法を組み合わせて前処置とする移植では、成長障害や内分泌障害などの晩期合併症を避けがたいため、当センターでは骨髄(こつずい)非破壊的移植(通称/ミニ移植)に積極的に取り組んでいます。ミニ移植の成績は従来型の移植と比較して遜色がなく、むしろ良好な成績が得られており、晩期合併症の頻度(ひんど)を低く抑えることができています。
3.AYA世代(思春期・若年成人)への対応
AYA世代に発生するがんは、白血病・リンパ腫、肉腫、脳腫瘍など小児がんと同じ病型のがんが多く、小児と同じ方針で治療を行うことが良好な治療成績につながるといわれています。このような観点から、当センターはAYA世代を受け入れています。
4.緩和ケア
緩和ケアは終末期医療だけではありません。がんと診断したときから疼痛(とうつう)緩和などの緩和ケアを開始するのが最近の考え方です。当センターはQST(QOL Support Team)を組織しており、子どもに苦痛を我慢させることなく、子どもらしい生活を維持しながら治療を受けられるよう、子どもだけでなく家族を含め、全人的に支える仕組みを構築しています。
5.長期フォローアップ外来
がん治療が終了し、再発の心配がなくなっても、がんそのものの影響や強い治療のために、成長障害、内分泌機能障害、不妊などの晩期合併症に悩まされることがあります。週1回の長期フォローアップ外来を開設し、治療終了後も子どもたちの成長を支えるために複数診療科・多職種がかかわっています。
6.小児がん相談
小児がんの子どもが初めて入院した場合、まず小児がん相談員(MSWと看護師)と心理士が、すべての子どもたちおよび保護者と面談し、患者会、相談窓口、各種補助、ファミリーハウス(当センター敷地内に設置している家族用宿泊施設)などについて紹介するとともに、退院後の生活を含めた心理社会的支援を行います。当センターを受診されていない方の小児がん相談にも対応しています。
おわりに
成人がんの場合、患者さんは治療が成功して元通りの体になり、発病前の社会生活に戻れることを希望されます。小児がんの子どもたちは元通りに戻るだけでは不十分です。がんに対する治療が終わった後、成長して成人し社会人となって自立し、地域社会の一員となることが必要です。
当センターは母と子の健康を守る病院です。赤ちゃんから思春期・若年成人に至るまで、子どもの成長に応じてきめ細やかな診療を行うのみならず、子どもたちの成長を支えるための充実した仕組みが整っています。当センターのキャッチフレーズである「子どもたちに勇気、夢そして笑顔を」を実現することが使命だと思っています。
更新:2024.10.03