泌尿器がんー前立腺がんの診断と治療

済生会吹田病院

泌尿器科

大阪府吹田市川園町

泌尿器がんに対する取り組み

泌尿器がんとは、副腎・腎・尿路(腎盂(じんう)、尿管、膀胱、尿道)・生殖器(前立腺、精巣、陰茎)に発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の総称です。頻度(ひんど)の最も高い「前立腺がん」、当院で特徴的な取り組みを行っている「精巣がん」、治療が多様化している「腎がん」および「尿路上皮(にょうろじょうひ)がん(膀胱がん、腎盂・尿管がん)」について紹介します(図1)。

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図1 泌尿器科で対応する部分(済生会吹田病院HPより)

前立腺がんの特徴

前立腺がんは男性に特有のがんで、がんの中では増加割合が最も高く、年間約2万人が罹患する”男性のがんの中では罹患数が最も多い”がんです。原因としては、高脂肪食など食生活の変化や長寿命化、検査技術の向上などが考えられます。”60歳以上の高齢者”に多く、その多くは増殖がゆっくりしているという特徴が挙げられます。

前立腺がんは”初期では自覚症状がほとんどなく”、がんがある程度大きくなってはじめて、残尿感、頻尿(ひんにょう)、下腹部不快感などがみられます。膀胱まで進行すると血尿や尿失禁などがみられ、最も多い転移部位である骨(背骨や骨盤骨)に転移すると、腰痛や座骨神経痛などが現れることもあります。

前立腺がんの診断

前立腺がんの検査は複数ありますが、「PSA(前立腺特異抗原)」という腫瘍マーカーは、”前立腺がんのスクリーニング検査として極めて有効性が高く”早期発見が可能になりました。スクリーニング検査により前立腺がんが疑われる場合は、針生検によって組織の一部を採取し、病理組織診断を行います。

前立腺がんと診断されると、どこまで進んでいるかを調べるために、CTや骨シンチグラフィーなどの検査を行います。前立腺がんは骨やリンパ節に転移しやすいため、骨やリンパ節などに転移していないかどうかを調べます。

前立腺がんの治療

1.手術療法

①開腹手術・腹腔鏡手術

②ロボット支援腹腔鏡手術(図2)

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図2 ロボット支援手術システム(済生会吹田病院HPより)
1.「サージョンコンソール」と呼ばれる操縦席に座り、3D画像を見ながら手元のコントローラーを操作します
2.「ペイシェントカート」の4本のロボットアームにその動きが伝わります
3.「ビジョンカート」のモニターに手術中の画像が映し出され、手術スタッフにも同じ画像が共有されます
(済生会吹田病院HPより)

当院では2016年からこの手術法を導入しました。カメラの映像は3D画像で遠近感がとらえやすく、手ぶれ防止機能や手の動きを縮小して伝えるスケーリング機能などがあり、精密で微細な動きが可能になりました。

2.放射線治療

①高精度放射線療法(図3)

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図3 当院の放射線治療機器
体に負担の少ない放射線がん治療が行えます。無痛のマスク固定方式や治療時間の短縮などにより、大幅に負担を軽減でき通院治療が可能です
(済生会吹田病院HPより)

放射線療法は体に負担が少なく、全摘出手術と同程度の効果が得られる治療法です。周辺組織を傷つけずに済むことから、性機能が維持される確率も高くなります。”通常の外部照射療法と比べ副作用や合併症を少なくする効果”が期待できます。

②密封小線源治療

放射線を出す小さな線源(カプセル)を前立腺内に挿入して埋め込み、前立腺の内部から放射線を照射する治療法です。

3.内分泌療法

男性ホルモンであるテストステロンによって、前立腺がんは増殖して広がり続けます。テストステロンの働きを止めると、がんの増殖は抑制されます。これがホルモン療法(内分泌療法)と呼ばれる治療法です。

4.化学療法(抗がん剤治療)

内分泌療法により、テストステロンが抑制され、前立腺がんの増殖を抑えることができますが、この治療法で効果がみられなくなったがんのことを去勢抵抗性前立腺がんと呼んでいます。この去勢抵抗性前立腺がんに抗がん剤である「ドセタキセル」や「カバジタキセル」が使用できるようになり、生存期間も有意に延長できていると報告されています。

5.PSA監視療法

腫瘍マーカーのPSA(前立腺特異抗原)検診で、早期発見され根治(こんち)できるケースが増加していますが、その一方で、治療の必要がない前立腺がんが見つかり、過剰な治療が行われてしまう危険性があります。そこで登場してきたのがPSA監視療法です。監視療法は、すぐに悪くなるとは考えにくい患者さんを対象に、積極的な治療は行わず、定期的にPSAや前立腺生検を行いながら、様子を見ていこうという治療です。

6.放射線医薬品による治療

前立腺がんの骨転移や骨の痛みに対して治療用の「放射性医薬品(ストロンチウム、ラジウム)による治療」も行っています。骨転移痛の緩和治療では、ほかのがん性疼痛(とうつう)と同様に、単に疼痛緩和の観点からのみならず、個々の患者さんの病態や治療計画とともに、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)などを総合的に考慮して、鎮痛剤、抗がん剤などによる薬物治療、放射線療法および外科療法などを用いた集学的アプローチが重要です。

更新:2024.10.07