生まれてくれてありがとう
済生会吹田病院
小児科
大阪府吹田市川園町
入院になる赤ちゃん
新生児に特化した治療を行う新生児集中治療室は「NICU」と呼ばれます。そこで行われている新生児医療は産科とともに”命の誕生”に携わり、医療の世界では特異分野です。高度で特殊な技術を必要とし、常に赤ちゃんの変化への対応を求められます。当院には2018年2月現在、全国に786人しかいない周産期専門医(新生児)が4人在籍し、専門的な知識や高い技術を持って日々の新生児診療にあたっています。
日本は新生児死亡率が他国の追随を許さないほど低く、世界一安全に赤ちゃんが生める国です。でも分娩や出生が安全なら周産期医療は必要なく自宅でお産をすれば良いわけですが、そうではないということは分娩、出産には少なからず危険性があることを示しています。生まれてきてしんどい赤ちゃんを助けるのが新生児科医の仕事です。
入院する赤ちゃんはいくつかのグループに分かれます。1つ目は「適応障害」です。赤ちゃんは胎内ではお母さんにずっと守られ、酸素も栄養もお母さんからもらっています。出生すると呼吸することも、おっぱいを飲むこともすべて自分でしなければなりません。これが上手にできない場合に赤ちゃんを手伝ってあげる必要があります。
次に「早産児」です。現在の日本の医療では、肺がつくられ始める在胎22~24週の赤ちゃんを助けることができます。早産になった事情はさまざまあるものの、赤ちゃんは生まれてきた週数としては”正常”で生まれてきます。自分で呼吸することができない、感染に対する抵抗力がない、頭に出血しやすいなど未熟なところが数多くあります。人工呼吸器や薬剤で呼吸や循環をコントロールして、合併症が起こらないように管理します。
3番目に胎内で感染している、生まれつき心臓に穴が開いている、染色体に異常があるなど「生まれたときから病気」がある場合です。診断技術の向上により、胎内で出生前に病気が見つかることも増えてきました。その赤ちゃんの病気の専門医師のいる施設で出産してもらうこともあります。
最後に、お腹(なか)の中や生まれてくるときにしんどくなった「新生児仮死」の赤ちゃんです。ダメージを受けた脳を守るために脳低体温療法を施します。再生医療による治療が研究されています。
いずれの場合も健康な赤ちゃんを望んでいた家族、特にお母さんにとって赤ちゃんが入院の必要な状況になることはとても悲しいことです。保育器に収容され、管やモニターをつけられているわが子を見て涙を流すお母さん、NICUにはこのお母さんの気持ちを受けとめる臨床心理士も在籍しています。スタッフもお母さんに寄り添い、自分たちも家族の一員のように赤ちゃんと接しています。赤ちゃんも日々成長し、命の大切さを教えてくれます。
赤ちゃんたちがNICUを退院する日が来ます。笑顔になったお母さんに抱っこされて、祝福されて帰っていきます。この風景を見るたびに赤ちゃんに「生まれてくれてありがとう」と、思います。
更新:2024.01.26