せん妄について
済生会吹田病院
精神科
大阪府吹田市川園町
せん妄の要因
手術を終えた日の夜に「家に帰る」と身支度の準備をする人がいます。「大事な点滴ですよ」と伝えているにも関わらず、点滴を抜いてしまう人もいます。穏やかだった人が、急に興奮して家族も驚くような状態になる人がいます。これらはせん妄(もう)の可能性があり、治療上大きな事故や妨げにつながることがあります。
せん妄とは一言でいえば、「身体的な要因による脳機能不全が引き起こす、さまざまな精神症状」です。軽度から中等度の意識障害は、病気、手術などの身体的なストレスや治療上必要な薬での副作用など、いろいろな原因で起こります。意識障害が軽度から中等度であるために、状況把握や医療者の指示の理解が十分にできない状態が生じます。
せん妄の症状と治療
せん妄になると、見当識障害(時間や場所が分からなくなる)、記憶障害、興奮、睡眠障害、幻視(げんし)、妄想などさまざまな症状が起こります。また注意障害(ぼーっとして集中できない、話がすぐ逸(そ)れる)なども特徴です。せん妄のタイプとしては、そわそわしたり興奮したりが特徴の過活動型せん妄や、活動性が低く傾眠傾向(うとうとと浅く眠っている状態)が特徴の低活動型せん妄、その両方が現れる混合型せん妄があります。せん妄の症状は認知症と似ているものが多く、認知症と区別がつきにくい場合もあります。一般的にはせん妄は、急速に生じること、原因を取り除くことができれば改善すること、意識障害の程度に変動があること(夜間は興奮、日中は穏やか)などが特徴です。一方、認知症は、数か月~数年かけて緩徐に進行していくこと、意識障害を伴わないことなどが特徴となります。認知症自体が原因となってせん妄を生じる場合もあり、しっかり見分けるためには変化があった前後の情報が必要不可欠となります。
病気・治療が身体的な大きな負荷をかける場合、治療上せん妄が生じやすい薬剤を使用する場合、認知症・脳梗塞(のうこうそく)などせん妄を起こしやすい要因をすでにもっている場合では、せん妄を生じる可能性が高くなります。
治療として最も効果的なことは原因の除去です。原因さえすっきり取り除くことができれば、せん妄は速やかに改善します。ただし、脳梗塞や認知症、治療困難ながんや治療上必要不可欠な薬剤の使用など、原因によっては取り除くことが困難な場合もあり、薬物療法を行うことも少なくありません。
薬物療法としては、抗精神病薬という薬や睡眠障害を改善するような薬などいろいろな薬を、全身状態を考慮した上で最小限使用していきます。
薬を使わない方法としては、鎮痛や体勢の変更、尿意・便意への対応、点滴や酸素マスクなどが気になりにくいような配慮など、身体的な負担を少なくすることなども有効です。また、混乱を生じにくくするために、眼鏡や補聴器の使用で情報を増やすことなども有効といわれています。
更新:2022.03.08