小児の在宅医療
済生会吹田病院
小児科
大阪府吹田市川園町
家に帰るようになった重症児
1992年の医療法の改正で、病院もしくは診療所でしか行えなかった医療行為が家庭でも実施可能になり、高齢者、がん、神経難病などの患者さんが”在宅医療”の対象となりました。酸素投与や人工換気、腹膜透析など高度な医療も実施できるようになり、手術や放射線治療以外は家庭での治療ができる時代になりました。高齢社会の進展を背景に、多くの人が自宅での療養を望んでいることから介護保険制度ができ、地域包括医療センターが設立され、訪問看護やデイケアサービスなどの充実も図られてきました。
小児科領域にも在宅医療が必要な子どもがいます。胎内や出生時に脳に酸素が上手くいかなくなった、重症の「新生児仮死」のお子さんです。重度の脳性麻痺(のうせいまひ)によって自分で呼吸できず、人工換気療法になったり、自分で食べることができず経管栄養管理になっていることがあります。かつて、その子どもたちは家に帰れずに何年も入院していました。転機は2006年、奈良の妊婦受け入れがなかなか行われず出産後死亡した事件で、マスコミはこぞって医療の怠慢と報道しました。しかし実際は、こういった子どもたちが新生児病棟に入院しており、新生児病棟が慢性的に満床であったことで、産婦人科が新しい入院を取れなくなっていたことが原因でした。これにより、ようやく小児の在宅医療が注目されました。この頃から小児の在宅医療用の機器も少しずつ整備され始めました。
医学の進歩は目覚ましく、左心低形成など複雑な心臓の構造異常には高度な手術と術後管理の向上、ハンター病のような先天性代謝異常症には骨髄移植(こつずいいしょく)や酵素補充療法、蘇生(そせい)対象でなかった18トリソミーなどに対しては集中治療や手術が施されるようになりました。助けることができなかった子どもを治すことや管理することが可能になったのです。
小児在宅医療の抱える問題
前述の子どもたちは気管切開をしたり、在宅酸素や在宅人工換気、胃瘻(いろう)を含めた経管栄養管理を行ったりして、自宅で生活できるようになってきました。すると、在宅医療のシステムが小児に適応していないという問題が生じてきました。年齢的に介護保険の対象ではなく、今でこそ増えてきましたが訪問看護してくれる施設も少なく、訪問診療をやっている施設は数えるくらいしかありません。QOL(生活の質)を上げるための在宅医療が、家族に負担だけを強いるものになっては本末転倒です。当院では、在宅医療をしている子どもとその家族を支えるために、レスパイト入院(*)を始めました。重症例にも門戸を広げ、訪問医療なども視野に入れた展開も考慮しています。
また在宅ケア医療児の問題の1つに就学があります。歩行が可能であっても通園・通学を断られることがあります。行政や福祉とも会合を持ち、このような問題の解決にもあたっています。成長した在宅医療児を成人医療に移行させる”トランジション”も大きな課題です。
*レスパイト入院/神経難病患者やがん患者などの要介護者を対象に、医療保険で短期入院を受け入れる制度
更新:2024.01.26